(※写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナのワクチン開発では、なぜ日本の製薬会社は欧米企業に負けたのでしょうか。製薬会社は莫大な資金や時間をかけて新薬を開発しています。国内の医療・医薬品の市場に魅力がなければ、製薬会社も日本国内で新薬を開発しようとは考えなくなってしまうといいます。何が起きているのでしょうか。※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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      そもそも日本で新薬開発が行われていない現実

      日本製薬工業協会によると、一昔前の2010年の時点の比較で、世界の市場に初めて登場した医薬品が各国で承認発売されるまでの平均期間は、もっとも早いアメリカで0.9年、当時の日本は4.7年でした。より効果のある医薬品による治療を待つ患者さんにとっては、この4.7年のタイム・ラグは非常に長いものです。医療先進国と言われる日本でも、当時は新しい医薬品の普及の面では世界で38位と決して良い環境ではなかったのです。

       

      現在は、政府と審査機関が協力して、承認スピードを速めるための取り組みが行われています。国際共同治験への積極参加や、病院ごとに行われてきた臨床試験をネットワーク化することで一度に多くの試験ができるようにするとか、審査員を増やすことによる審査の迅速化など、規制も緩和しながら効率的な審査・承認プロセスの整備を行っています。その結果、5年近くもあったドラッグ・ラグは1年にまで短縮されました。

       

      ところが、問題はそう単純ではなかったのです。承認までの期間が短縮・効率化され、薬は作りやすくなったはずなのですが、日本の製薬メーカーがアメリカなど海外で薬を作るようになってしまったのです。代表的なものが抗がん剤です。

       

      「日本で抗がん剤が承認されない理由の1つに、そもそも日本で開発が行われていないという背景がある。欧米発の新薬は小規模な製薬会社やベンチャーが創製し、実用化を担うことが少なくない。とりわけ最先端技術を駆使したケースは、その傾向が強い。従来であれば、そうした最先端の薬を日本の製薬会社が導入し、日本での開発を担うのが一般的だった。

       

      ただ日本の製薬会社もグローバル展開が進み、薬価引き下げの圧力が強い日本の収益依存は下がり、世界最大の医薬品市場である米国に投資を集中している。米国での権利取得を優先して新薬を獲得したり、企業買収するケースが多い。米国での事業化を優先するため、日本での実用化は、どうしても後回しになりがちだ」
      (化学工業日報2021年3月24日【社説】「急増する抗がん剤のドラッグ・ラグ」)

       

      簡単に言うと、アメリカの方が市場規模も大きいため、それらの海外市場でのビジネスを優先するようにならざるを得ないということです。日本の製薬企業がアメリカで共同開発し、海外で効果が認められて使われている医薬品が日本では手に入らないということすらあります。未承認薬の問題です。

       

      製薬会社は、時間や資金の面でも莫大なコストをかけて薬を開発しています。たとえ日本の製薬会社が国内で新薬の開発に成功したとしても、治験の規格が日本と国際標準で異なると、海外市場で流通させるために、さらにコストがかかります。手続きが規制によって非効率だったり、国内の医療・医薬品の市場に魅力がなければ、製薬会社も国内で新しい薬を作ろうと考えなくなってしまうのです。

       

      これもまた、今病気で苦しんでいる人や、まだ治療薬のない病気を抱えている人たちにとっては深刻な問題です。また、今は健康でも、病気にかかる可能性は誰にでもあります。そのときに、他の先進国には効き目の高い薬があるのに、日本では手に入らない場合もあるのです。

       

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        ワニブックス

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