(※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ、M&Aに失敗したと感じる企業が絶えないのでしょうか? 筆者らが分析したところ、失敗の多くがビジネスデューデリジェンス(以下、ビジネスDD)に起因していることがわかりました。実は、そもそもビジネスDDを実施していない会社も珍しくありません。ビジネスDDを行わずに企業を買収することは、事業の中身(事業内容の現状、問題点、強みなど)を知らないまま購入するということ。未実施のまま買収すれば、効率的な運営ができず、効果が上がらないのも頷けます。ここでは事業の中身を知るために欠かせない手順の1つ、「経営分析」について見ていきましょう。

粉飾決算の見分け方

●原価率低下+棚卸資産増加⇒架空在庫

原価率が低下し、かつ棚卸資産が増加していたら、棚卸資産を水増しして原価率を下げ、利益を水増ししている可能性があります。売上原価は、期首在庫に当期仕入額を足して期末在庫を差し引いて計算します。したがって、棚卸資産(期末在庫)を架空計上すれば、期末の商品在庫が増加して売上原価が減少し、利益が水増しされるわけです。架空在庫は、期末の在庫を調整するだけでできるので、比較的実施されやすい粉飾決算です。

 

出典:寺嶋直史、齋藤由紀夫共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より
[図表1]粉飾決算① 原価率低下+棚卸資産増加⇒架空在庫 出典:寺嶋直史、齋藤由紀夫共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より

●原価率低下+売上債権増加⇒架空売上

上記と同様に原価率が下がっており、かつ売上債権が増加していたら、架空売上によって売上高を水増しして利益を水増ししている可能性があります。具体的には、取引先の架空注文書や自社の架空請求書(納品書)を作成し、仕訳処理「(売掛金)XX/(売上)XX」を行うのですが、架空売上分の原価は仕訳されず、原価の額自体に変化がないため、原価率は低下し、利益が水増しされるわけです。そして架空売上の売掛金は回収されないため、売上債権や売上債権回転日数は増加していきます。

 

出典:寺嶋直史、齋藤由紀夫共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より
[図表2]粉飾決算② 原価率低下+売上債権増加⇒架空売上 出典:寺嶋直史、齋藤由紀夫共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より

●使途不明金

その他、注意が必要なのは、「使途不明金」と呼ばれる科目です。具体的には「仮払金」「立替金」「貸付金」があります。仮払金や立替金は、例えば旅費を社員に手渡した等で一時的に計上する科目であり、別途経費計上する必要がありますが、そのまま放置してしまうケースです。また、貸金は、役員報酬を下げる代わりに計上するなど、社長個人の借金返済や、個人的な交際費などで使用されるケースがあります。

 

なお、これら粉飾決算を見抜くには、3~5年の時系列で比較して、上記の数値が極端に増えていると「お化粧(粉飾)」の可能性があります。

 

 

寺嶋 直史

株式会社レヴィング・パートナー 代表取締役

事業再生コンサルタント、中小企業診断士

 

齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役

スモールM&Aアドバイザー

 

※本連載は寺嶋直史氏、齋藤由紀夫氏の共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門

スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門

寺嶋 直史
齋藤 由紀夫

中央経済社

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