(※写真はイメージです。/PIXTA)

“一国一城の主”を目指し、独立開業したもののあえなく1年で倒産…そんなケースは決して珍しくありません。資金調達アドバイザーの田原広一氏は、現場で数多くの失敗事例を見聞きしてきたからこそ、「開業前に最低でも半年間分ぐらいは、売上がゼロでも生活できるよう生活費を貯めておいてください」とアドバイスしていると言います。自力で貯めるのが難しければ、借金も選択肢であると述べますが…。

「利息を払うのはムダ」という思い込み

「差し迫ってから」では借りられない…利息は「掛け捨て保険」のようなもの

アンチ借金派が「借入=悪」と唱えるもう一つの主張が、利息の存在です。

 

つまり、「差し迫った状況でもないのに、融資を受けて利息を払うなんて、お金をドブに捨てるようなものではないか」というものです。

 

その主張には一理ないわけではありませんが、私は「利息=掛け捨て保険」と位置付けています。万が一の事態に備えて自分自身で医療保険やがん保険などの掛け捨て保険に加入している人は多いと思いますが、経営が危うくなった際に保険金が支払われる会社向けの保険というのはなかなかありません。

 

あえて該当するものを挙げると、「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」があります。取引先などが倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度で、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8000万円)まで借入でき、掛金の全額を経費に算入でき、解約時には掛金が全額戻ってくる場合もあるなどのメリットがあります。

 

しかし、借入ができるのは、正式な倒産手続きが取られたケースに限るため、中小企業で多く見られる“夜逃げ”のような状態では、借入は認められません。倒産した場合以外の一時貸付金の制度もありますが、実際に貸付を受ける際には積み立てた掛金が大幅に目減りするなどのリスクがあります。

 

また、「利息がもったいない」といっても、低金利時代にあって貸付金利は低水準にあります。例えば公庫であれば1~2%台。1000万円を借りても年間約20万円、月にして2万円程度です。さらに女性、35歳未満か55歳以上といった方ならば1%台から融資が可能(女性、若者/シニア起業家支援資金)です。のちに解説する認定支援機関の融資アドバイザーのサポートを受ければ、有利な金利での借入も視野に入ってきます。

 

大事な会社を守るための“転ばぬ先の杖”として活用するならば、利息を払って融資を受けることは「決して高い買い物ではない」と思います。

タダで資金調達できるエンジェル投資家は“オイシイ”?

融資以外の資金調達手段の一つ、エンジェル投資家に関する注意点にも触れておきたいと思います。

 

エンジェル投資家とは、「起業家に出資をする個人投資家」のことで、事業立ち上げに必要な資金などのサポートをしてくれる人を指します。

 

ちなみに、似たような資金調達法に「ベンチャーキャピタル(VC)」がありますが、実際は似て非なるものです。

 

エンジェル投資家が個人の資金を使って投資を行うのに対し、VCは顧客である投資家から資金を集め、投資会社が出資を行います。前者が個人の懐からの出資ゆえ、得られる金額も数百万円から数千万円と低めなのに対し、VCの場合、リターンの確実性が求められ、審査も厳しくなる分、出資金額も目安は1億~数億円と高くなります。

 

二者の使い分けとしては、まだ実績のない会社、個人が創業資金を集めるならばエンジェル投資家、経営が安定し、事業をより拡大するためのまとまった資金を出資してほしい際に適しているのはVCといえます。

最大のメリットは「返済不要で資金が手に入ること」だが…

では、創業時にあたってエンジェル投資家から出資を受ける際にはどんなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

 

最大のメリットは、返済不要で資金を手に入れられることです。また、エンジェル投資家には元経営者など実績のある人も多くいます。有力な人物の名前が株主として名を連ねることで、会社の信頼向上につながる場合もあります。資金面以外でも、会社にとって有益なサポートや助言を受けることも期待できるでしょう。

経営の権限を握られるリスクも…結局、タダほど高いものはない

一方で、メリットの裏返しとしてデメリットもあります。

 

キャリアを活かしたアドバイスを受けられる一方で、望む望まないに関係なく会社の経営に口を挟んでくるようなエンジェル投資家もいます。

 

また、“エンジェル投資家”を名乗る人間による「お金を一部出すから、この事業に投資しないか」といった投資詐欺にも注意する必要があります。加えて、出資を受ける際には、資本金1000万円以上の法人を設立した場合、事業立ち上げから2年間の消費税納税義務免除の対象から外れ、初年度から消費税納税義務が発生する点も留意しておきましょう。

 

また、VCに関しても同様ですが、相応の事業の将来性を認められてのケースとなり、どこか“カッコイイ”響きもあります。新規取引先のルートや、都市銀行などのメガバンクの紹介も期待でき、出資金を返さなくてもいいのもメリットです。

 

とはいえ、単純に“お金をあげる”のではなく、あくまでも“出資”であるという点には注意する必要があります。毎期、配当を支払う必要がありますし、私が見聞きした事例でも、出資を受けたばかりに、付き合う取引先についても出資者の知り合いに限定されるなど、自身が思うようにビジネスが展開できないというケースもあります。

 

リスクを負って、自分で事業をスタートするならば、エンジェル投資家にお願いするか、自力で基盤をつくるかのどちらを選ぶかは、考え方や事業プラン次第ですが、“タダほど高くつくものはない”という言葉も考慮に入れ、慎重に検討するべきだと思います。

次ページ「困ったときに借金すればいい」

※本連載は、田原広一氏の著書『賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣

増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣

田原 広一

幻冬舎メディアコンサルティング

資金調達のノウハウが知りたい経営者、必読!  起業の喜びも束の間、会社の存続をかけ資金繰りに頭を悩ます日々…。創業から1年以内に約3割の企業が廃業するといわれているなか、生き残るために必要な融資の知識とその活用…

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