(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年11月8日に公開したレポートを転載したものです。

3. 変動金利型と固定金利型のどちらを選択すべきか

以上のような住宅ローンの市場動向を踏まえた上で、住宅ローンを変動金利型で借り入れるべきか、固定金利型で借り入れるべきなのかについて考えてみたい。以降、元利均等返済で住宅ローンを借り入れるものとし、住宅ローンの取組時に変動金利型であっても固定金利型であっても、返済可能な程度の収入水準や金融資産を持つものとして議論を進めていく。

 

3-1. 変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットの比較

 

まずは、変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットについて整理する[図表8]。取組時は変動金利型の方が固定金利型よりも適用金利が低い。そのため、取組時の返済額(元本返済+利息支払)で比較すると、変動金利型が固定金利型よりも小さくなる一方で、元本返済額のみを比較すると、変動金利型の方が固定金利型よりも大きくなる。

 

また、変動金利型は10年国債利回りなどの市場金利が変動すると適用金利も変動するが、固定金利型は変動しない。よって、将来に金利が上昇すると、変動金利型の適用金利が取組時の固定金利型よりも高い水準になるリスクがある。また、固定金利型はローンの完済までの返済額が確定するので、将来の資金計画を立てやすいという利点もある。

 

[図表8]変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットの比較(元利均等返済の場合)
[図表8]変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットの比較(元利均等返済の場合)

 

3-2. 変動金利型住宅ローンの借り手が金利リスクを管理する際の3つの留意事項

 

変動金利型を取り組むべきか、固定金利型を取り組むべきかという悩みの根本的なところは、「将来に金利上昇が生じるのか否か、金利上昇が生じたとしてもうまく乗り越えられるのか」という点にあると思われる。

 

仮に完済するまで金利上昇が起きないとするならば、返済額が変動して将来の資金計画が立てにくいとする問題点があったとしても、固定金利型の返済額よりも小さいのであれば、変動金利型で借り入れるメリットの方が大きいだろう。一方で、金利上昇がすぐさま生じてしまうと、変動金利型で借り入れるメリットがなくなり、固定金利型で借り入れた方が返済の負担が小さかったという事態になりかねない。

 

このような根本的な悩みに対して、住宅ローンを検討する際に「金利上昇局面になってから固定金利型で借りればよい」と考える個人もいるかもしれない。しかしながら、本稿では、次の3つの観点で「金利上昇局面になってから固定金利型に契約変更する(または、借り換える)」という選択は推奨しない。

 

1つ目の理由は、「一般的に金利上昇する際は変動金利型よりも固定金利型の方が早く適用金利が上昇するため」である。住宅ローンの適用金利は金融市場の動向に応じて各金融機関が決定するが、変動金利型よりも固定金利型の方がより長期の金利水準を参照して決定されるのが通例である。

 

一般的に日本のように中央銀行が金融緩和政策下にある場合、中央銀行は短期金利が低位に誘導するような政策をとっている。その最中に経済成長率やインフレ期待が高まり景気回復局面に移行すると、短期よりも長期の金利から上昇していくことになる。日本では10年金利を低位に誘導するような政策をとられているが、景気回復局面になれば20年や30年の金利から上昇し始めることが予想される。

 

そのため、長期の金利を参照する固定金利型の住宅ローンの適用金利の方が早く上昇していくことになる。そのため、変動金利型の住宅ローンの適用金利が上昇してから固定金利型の住宅ローンに契約変更、または借り換えたとしても固定金利型のメリットを十分に享受するのは難しい。

 

2つ目の理由は「将来の金利上昇を予測するのは難しいため」である。先述したように、日本は長期の低金利環境下にあるが、その要因は経済成長率やインフレ期待が低位であるだけではなく、日本銀行による強力かつ様々な金融緩和策によるところも大きい。このような背景もあって、日本の市場金利の水準が決定するメカニズムは非常に複雑なものになっている。

 

さらに、海外の事例を見ると、中央銀行の政策変更(金融緩和解除や金融引き締めへの移行)があると、短期間で金利上昇が生じることもある。変動金利型から固定金利型への契約変更や借り換えを検討するのであれば、金利動向や日本銀行の政策動向について日々モニタリングしておく必要がある。一般の個人がこのような態勢を整えつつ、機動的に契約変更や借り換えを行うのは、あまり現実的な選択肢になりえないと思われる。

 

3つ目の理由として「住宅ローンの債務者は金利リスクをヘッジする手段に乏しいため」が挙げられる。2つ目の理由として将来の金利上昇を予測するのが難しい点に言及したが、住宅ローンを提供する金融機関はデリバティブ(例:金利スワップや国債先物など)等の金融商品を用いて金利リスクをヘッジすることはいくらか可能であるが、一般的に住宅ローン債務者が金利リスクをヘッジできる金融商品を購入・選択するのは困難である。そのため、住宅ローン債務者がとりえるリスクヘッジの手段として、将来の環境変化や損失に備えて預貯金などでリスクバッファを確保しておくくらいしか選択肢がない。

 

3-3. 変動金利型住宅ローンの借り手がとりえる戦略(その1):ミックスローンの活用

 

前項では、金利上昇が生じた際に変動金利型から固定金利型へ機動的に契約変更する(または借り換え)のが難しい点と、住宅ローン債務者によって金利リスクを管理する方法が限られる点に言及した。これらの条件を前提のものとして、これから住宅ローンの借入や借り換えを検討している人がどのような戦略をとりえるのかについて考えてみたい。

 

1つ目の戦略は「ミックスローン」(変動金利型と固定金利型の組合せ)の選択である。金融理論では、相反するリスクをもつ金融商品をポートフォリオに組み入れると分散効果が働くことが知られている。図表8でも示したように、元利均等返済で住宅ローンを取り組む前提だと、変動金利型と固定金利型のメリットとデメリットは相反したものになっている。このような相反関係にある金融商品は金融理論の観点から「組み合わせた方がよい」という答えが導かれる。

 

どのような割合で取り組めばいいのかは、住宅ローンを借り入れる個人のリスク許容度に依存する。つまり、変動金利型で取組時の固定金利型を超えるような金利上昇が生じても、住宅ローンの返済が問題なく行える程度に収入があり、金融資産も十分に保有しているのであれば、変動金利型の割合を大きくしても問題はない。一方で、変動金利型で固定金利型を超えるような金利上昇が生じた際に、住宅ローンの返済が困難になるようなギリギリの収入水準や金融資産なのであれば、当初より返済額は大きくなるが固定金利型の割合を大きくした方がよい。

 

3-4. 変動金利型住宅ローンの借り手がとりえる戦略(その2):リスクバッファを確保する

 

2つ目の戦略は預貯金などの金融資産でリスクバッファを確保しながら変動金利型住宅ローンを借り入れる方法である。低金利環境が今後も長く継続すると期待できるのであれば、相対的に低利の変動金利型住宅ローンを借り入れ、毎月の返済額を抑制しながら借入残高を減らしつつ、余裕が生じた分をリスクバッファとして預貯金などに回すという発想である。

 

預貯金などのリスクバッファをもつことで金利上昇が生じた際の返済額の増加に対処することができるだけでなく、繰り上げ返済を行うための原資として用いることもできる。繰り上げ返済を行えば、金利上昇が生じても将来の利息支払いの負担がある程度抑制できる。さらに預貯金などでリスクバッファを確保しておくと、教育資金などで急な出費が必要になる際の資金に充てることもできる。

 

住宅ローンの取組時の金融資産の規模が大きくない場合、毎月の住宅ローンの返済額の一定割合を預貯金に回すことができるのが理想的である。このような対応を意識的に行うのが難しい場合、例えば、積立預金・貯金や積立定期預金・貯金のような自動的・定期的に預け入れるようなサービスを活用する方法がある。

 

相対的に利回りの高い積立定期預金・貯金は原則満期までの継続が求められるが、相対的に利回りの低い積立預金・貯金であれば手数料なしに途中で解約できることが多い。勤務先で財形貯蓄が利用できるのであれば、目的を問わずに自由に一部引き出しや解約が可能な一般財形貯蓄を活用するという選択肢もある。

※ 一般財形貯蓄以外にも、財形貯蓄には財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄があるが、これらは一部引き出しや解約に制限があるため、将来の金利上昇への備えとしての活用という意味で一般財形貯蓄に劣後するものと思われる。

 

また、金融資産の規模に余裕があれば、元本保証のある積立預金・貯金や一般財形貯蓄ではなく、積立投信などの定額・定期の運用商品・サービスで積み立てるという考え方もあるかもしれない。つみたてNISAであれば、税制優遇制度を活用することもできる。但し、このような運用商品・サービスを活用する場合、基本的に元本保証がない点に注意する必要がある。さらに、分散投資や長期投資を行うことで価格変動リスクを抑制していく必要があるだけでなく、変動金利型住宅ローンの金利リスクに対するバッファ効果が期待できる運用商品を選択した方がよいという意味で、それなりに金融リテラシーが求められるものと思われる。

 

これらの金融サービスと合わせて住宅ローンに申し込むと、適用金利をいくらか引き下げるような対応をしている金融機関があるので、目的に合うのであれば、検討してみる価値があるだろう。

 

次ページ4. リスクバッファ付き変動金利型住宅ローンの効果検証

本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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