(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年11月8日に公開したレポートを転載したものです。

2. 住宅ローン市場の動向

2-1. 変動金利型住宅ローンのシェアが拡大

 

図表1によると、中長期的に住宅金融支援機構のマーケットシェアが縮小している一方で、国内銀行のマーケットシェアが拡大していることが分かる。住宅金融支援機構は固定金利型の住宅ローン商品を販売している一方で、国内銀行は固定金利型だけではなく変動金利型の住宅ローン商品も販売している。

 

住宅金融支援機構の調査によると、新規貸出における変動金利型住宅ローンの割合が徐々に拡大しており、2019年度は75%を占めている[図表5]。先述したように、低金利環境が長期化している中で、相対的に取組時の適用金利の水準が低い変動金利型で借り入れ、住宅ローン減税の経済的なメリットも享受しながら、毎月の返済額を抑制する個人が増えているものとみられる。

 

[図表5]住宅ローンの新規貸出金利タイプ別構成比(金額加重平均)の推移
[図表5]住宅ローンの新規貸出金利タイプ別構成比(金額加重平均)の推移

 

図表6は業態別の住宅ローンの新規貸出における金利タイプ別の構成比を示したものである。業態に関係なく国内銀行が販売する変動金利型住宅ローンの新規取組が伸びていることが分かる。つまり、家計の住宅ローン残高の伸びは、国内銀行による変動金利型住宅ローン販売の拡大が大きく寄与している。

 

但し、2019年度の都銀・信託が提供する変動金利型住宅ローンの新規取組が9割程度になっている一方で、信用組合では3割程度にとどまるなど業態別にみると住宅ローンの選択に違いがある。この点は、都銀は都市部に営業基盤を持つ、信託銀行は富裕層を多く顧客に持つ一方で、信用金庫や信用組合は中小企業の経営者やその従業員がメインの顧客層になるなど、業態ごとの顧客層の違い、各金融機関の住宅ローンの販売戦略の違いなどに起因しているとみられる。

 

[図表6]住宅ローン新規貸出金利タイプ別(金額加重別)の推移(業態別)
[図表6]住宅ローン新規貸出金利タイプ別(金額加重別)の推移(業態別)

 

2-2. 住宅ローンの借入期間の長期化

 

住宅金融支援機構の調査によると、個人の住宅ローンの借入期間が長期化している。2016年から2019年にかけて、約定貸出期間は25.6年から27.0年に、完済するまでにかかる期間も15.0年から16.0年に長期化している。長らく賃金が横ばいで推移する中で、特に新築・中古ともにマンション価格は上昇しており、これらの住宅を購入する際に個人は相対的に適用金利の低い変動金利型住宅ローンを選択するだけではなく、借入期間も長期化することで毎月の住宅ローンの返済額を抑制しているものとみられる。

 

2-3. 住宅ローンのシェアを伸ばす信託銀行、地方銀行と新規参入銀行

 

図表7は各金融機関のディスクロージャー等の公表数値から住宅ローンを集計し、業態別の残高シェアを計算したものである。業態別の住宅ローン残高シェアの推移を見ると、シェアを伸ばしている業態とそうでない業態があることが分かる。

 

個別の金融機関で比較すると都市銀行や一部の信託銀行の残高シェアが大きく、基本的には金融機関の規模と住宅ローン残高シェアと関連している。2014年度以降の推移を見ると、信託銀行(6%→7%)、地方銀行(36%→40%)とその他の銀行(3%→6%)はシェアを伸ばしているが、都市銀行(36%→28%)や信用金庫(11%→10%)はシェアを落としている。特にその他の銀行では流通系やインターネット専業銀行等の新たに参入した銀行(以降、「新規参入銀行」と呼ぶ)のシェアが高まっている。

 

都市銀行は海外での貸出や運用を強化して収益力の向上を図る方向にあるが、一部の信託銀行、地方銀行や新規参入銀行は住宅ローンからの利ざやの獲得や手数料収入を重視しているものとみられる。一方で、低金利環境が長期化していることで、これらの一部の信託銀行、地方銀行と新規参入銀行で住宅ローンの獲得競争が過熱しており、適用金利のさらなる低下につながっているものと考えられる。

 

[図表7]国内銀行の住宅ローン残高シェアの推移(業態別)
[図表7]国内銀行の住宅ローン残高シェアの推移(業態別)

 

2-4. 特約付きの団体信用生命保険を選好する個人の増加

 

基本的に金融機関から住宅ローンを借り入れる際に団信への加入を求められるが、追加コストなしに最低限の保障(死亡や高度障害状態になると住宅ローンが完済され残債がゼロになる)を受けられる団信を選択できることが多い。さらに充実した団信(がん・脳卒中・急性心筋梗塞になると住宅ローンの残債がゼロになる等)に加入する場合は、金利の上乗せなどの追加的なコストの支払いが求められるのが通例である。

※ この場合、住宅ローンを借り入れる先の金融機関が団体信用生命保険の保険料を負担する

 

低金利環境下にあって住宅ローン販売競争が激化しており、さらに住宅ローン減税で順ざやによる経済メリットも獲得できる中で、保障内容の充実した団体信用生命保険(団信)を取り組む人が増えている。例えば、ソニー銀行のプレスリリースによると、ソニー銀行で2020年度に住宅ローンを利用した人の利用動向をみると、金利上乗せのある保障の手厚い団信に加入する人が増えているとのことである。住宅ローンの適用金利が低水準にあることで、一部の個人はトータルコストで団信を選択するようになっている。

※ 「住宅ローンのお客さまのご利用動向に関するお知らせ」(ソニー銀行、2021年6月4日)

 

次ページ3. 変動金利型と固定金利型のどちらを選択すべきか

本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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