(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢となり、見晴らしのいい高台の戸建てから、便利な立地のエレベーター付き公営住宅への入居を希望する夫婦がいました。しかし、公営住宅の入居用件には「持ち家のある人は不可」とあります。愛着のある家なので、売却するには忍びなく、ひとり息子に贈与したいと考えています。なにかいい方法はあるのでしょうか。相続問題の解決に定評がある、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

祖父母・両親からの贈与が有利になる、相続時精算課税

そこでご紹介したいのが「相続時精算課税制度」です。相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を利用した場合、贈与される財産の価額が2,500万円を超えない限り、贈与税が課されることはありません(この2,500万円の枠は、複数年にわたり利用可能です。なお、2,500万円を超えると、一律20%の贈与税が課されます)。

 

相続時精算課税を利用しようとする場合、贈与を受けた人は、翌年2月1日から3月15日までのあいだ(贈与税の申告書の提出期間)に、納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」及びその他添付書類一式を贈与税の申告書に添付して提出しなければなりませんので、この点には注意が必要です。

相続税の課税の可能性が残る人は注意が必要

以上のように、相続時精算課税制度は、一定の条件を満たせば贈与税を納めなくてよくなる点でメリットのある制度なのですが、反面、2,500万円以内の贈与であったとしても、「相続時精算課税」の名の通り、相続時に、相続財産として受け継ぐものとして扱われ、「相続税」が課されることになるので注意が必要です。

 

ただし、相続税には「基礎控除」というものがあり、相続の際の遺産が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以内であれば、相続税が課税されないことになっています。これは相続時精算課税を利用した場合でも同じですので、そもそも現時点の財産が基礎控除の範囲内で、相続発生時まで見通した時に相続税が課されなさそうな状況の方であれば、まさにいちばんのメリットとなるわけです。

 

今回のAさんの場合、Aさんが亡くなった時点で妻と息子が相続人なら4,200万円(3,000万円+600万円×2)、息子だけの場合でも3,600万円(3,000万円+600万円×1)が、相続税の基礎控除額となります。そのことから、今後の年金収入等を見据え、資産が現在の3,000万円から大幅に増えないのであれば、そもそも相続税が課されない資産状況にあるといえます。そのため、今回のAさんが相続時精算課税制度を利用して息子に自宅不動産を贈与したうえで、きちんと手続をとれば、贈与税だけでなく、相続税も課されない可能性が高いと考えられます。

「暦年課税」が利用できなくなるデメリットも

ここまでの説明だけでは、相続時精算課税制度はメリットばかりのように感じられるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえない部分もあります。

 

贈与税には基礎控除というものがあり、年間(1月1日~12月31日)110万円以下の贈与であれば贈与税がかかりません(いわゆる暦年課税)。しかし、相続時精算課税を利用してしまうと、この暦年課税が利用できなくなります。この点は、デメリットになる人もいると思われますので、注意が必要です。

 

また、上記の通り、相続税がかからない見通しの方であれば、大きな効果を発揮し得るといえますが、相続税がかかりそうな方については、現時点で贈与による名義変更をしても、相続時まで名義変更をしなくても、結局相続税がかかってしまいますので、この点だけ見れば変わらないともいえます。

 

相続時精算課税制度を利用される方は、以上のような点も考慮した上で、検討するのがいいでしょう。

メリットを享受できるか、実際に調べておくのもアリ

今回のAさんについては、相続時精算課税制度を利用してお子さんに自宅不動産を贈与し、無事公営住宅に入居できました。

 

Aさんのように、相続時精算課税制度を利用することによるメリットが大きい方もいれば、そうでない方もいます。本稿で相続時精算課税制度に関心を持った方は、実際にご自身にメリットがあるか検討してみてもいいかもしれません。

 

※弁護士又は弁護士法人の場合、所属弁護士会を経て国税局長に通知することで、その国税局の管轄区域内において税理士業務を行っています。対応していない弁護士事務所もあるので、相談の際は事前のお問い合わせをお勧めします。

 

 

國丸 知宏
弁護士法人菰田総合法律事務所
弁護士

 

 

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