(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者に「妄想、幻覚、徘徊」といった症状がみられたら、認知症を疑うことでしょう。医者でも疑い、そのまま「誤診」してしまうことがよくあるといいます。本当は完治も可能な身体疾患なのに、「治らない認知症」と誤診され、適切な治療がおこなわれなかったら…。医療法人昭友会・埼玉森林病院院長の磯野浩氏が、実例とともに解説します。

「かかりつけ医がいながら、何をみていたんだろう…」

同時に、もっと早く気づいていれば、近所迷惑になったり施設にショートステイさせたりすることもなく、早期に回復したはずなのに……という思いもあるでしょう。

 

何が問題だったのでしょうか。

 

実は、母親には長年の「かかりつけ医」がいて、定期的に血圧や血糖値、骨密度などの数値をみてもらっていたそうなのです。

 

私のみたところ甲状腺機能低下症は正確には分かりませんがかなり以前から進行していたと思われます。定期的な血液検査の項目に甲状腺ホルモンは含まれていないこともあるのですが、もし様子がおかしいと思ったら付加することは容易で、もちろん内科で調べることができます。

 

内分泌科などの専門診療科へ行かなければ判別し得ない病気ではありません。そもそも高齢者で「むくみ」があったら、まず「心臓、肝臓、腎臓、甲状腺」のいずれかを疑え、というのは医師の常識です。

 

むくみのある人が今まで一度も甲状腺の検査を受けずにいたということは不思議としかいいようがありません。内科のかかりつけ医がいながら、何をみていたんだろう……それが私の率直な思いです。

 

さらに釈然としないのは、2階に誰かが住んでいるなどの訴えが出てきてからかかったメンタルクリニックでの対応です。

 

明らかに認知機能の低下がみられる場合でも、すべてがアルツハイマー型認知症であるとは限りません。まして認知機能を低下させる病気として、甲状腺機能低下症は代表的なものです。精神科医であれば知っていて当たり前ですし、的確に鑑別できてしかるべきです。

 

もしかしたら内科では異常がなかったと、かかりつけ医か長女さんから申告があって、最初から除外されてしまった可能性はあります。しかしこれほどまでに顕著な身体的症状が出ているのですから、念のため調べることはできたはずです。

 

一方、一般の方で甲状腺機能低下症のことを知っている人は、自分や周囲の人でかかったことがある人がいるのならともかく、まず少ないでしょう。

 

ですから長女さんが、母親の異変を認知症ではないかと思うのは無理もないことです。かかりつけ医から異常を指摘されていなかった以上、認知症を疑い、精神科医に診せにいったのはそのときできるベストの対応であったといえるでしょう。

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    ※本連載は、磯野浩氏の著書『認知症診断の不都合な真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    認知症診断の不都合な真実

    認知症診断の不都合な真実

    磯野 浩

    幻冬舎メディアコンサルティング

    超高齢社会に突入した日本において、認知症はもはや国民病になりつつあります。そんななか、「認知症」という「誤診」の多発が問題視されています。 高齢者はさまざまな疾患を併せ持っているケースが多く、それらが関連しあ…

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