(※写真はイメージです/PIXTA)

もはや宇宙はロマンを語る場所ではなく、ビジネスの最後のフロンティアに様変わりしています。宇宙ビジネスは、農業生産や海運のナビケーションだけにとどまらず、無限に発展していく可能性のある身近なビジネスに変貌しています。日本人は宇宙ビジネスにどう向き合っていけばいいのでしょうか。※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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      日本の宇宙ビジネスが拡大しない理由は

      これだけ大きな市場規模を持つと、色々な企業や人たちがプロジェクトに関わってきます。たとえば日本の例では、国際宇宙ステーションにある日本の実験棟「きぼう」に関するJAXA(宇宙航空研究開発機構)のプロジェクトとして、新薬設計、加齢研究、小型衛星、船外ポートなどを通じて多くの民間企業との交流が図られてきています。

       

      最近こそ、日本でも宇宙ビジネスに乗り出すベンチャー企業が出てきましたが、元々、日本の宇宙産業は大手企業が引き受けて、基礎を築いてきました。中でも、ロケットや人工衛星の事業で中心となってきた企業は、三菱重工業、IHI、三菱電機、NECが代表的です。政府から研究開発の委託を受け、衛星を打ち上げる事業を担ってきたのです。

       

      日本で宇宙産業が本格始動したのは、1980年代後半頃のことです。日米通商交渉で衛星の発注に関して入札の自由化が検討されたとき、日本の衛星を作る技術は、まだまだアメリカには敵(かな)いませんでした。そこで日本政府は、いきなりビジネスとするのではなく研究開発を名目として、日本の衛星技術を保護しました。これが「日米衛星調達合意」です。

       

      政府が保護をするということで、宇宙産業に従事する人たちは安心してビジネスができます。一方で、保護されているので競争も市場もなくなってしまいます。

       

      航空機や人工衛星、ロケットなどを開発・製造する企業や、航空輸送、貿易商社で構成される日本航空宇宙工業会は、宇宙機器産業の実態報告書を公開しています。2019年の報告では、宇宙機器関連企業の売上高は3200億円あまり。内需や輸出入、研究開発費、設備投資、雇用の各項目がすべて前年比で減少しています。2000年以降、およそ2000億円台から3000億円台の間で推移していて、潰れることはないけれども事業は大きく発展もしていないのです。

       

      では、世界の商用ビジネスに参加し、納期やコストの面で欧米企業と戦えるのかというと、技術力とは別の問題が日本企業の課題となるのです。利益を出そう、より安い価格で製造しようという開発をしている外国企業に対して、日本は政府に紐づいた研究開発事業のため「技術発展」が開発の目的となっているので、高額になる傾向があるとともに、実績面も含めてどのように売っていくかという点で世界に後れをとっているのです。

       

      これは宇宙産業に限らず、日本の産業全体の問題でもあります。政府の保護により技術は一流になっても、世界と肩を並べて売っていく力が足りなくなってしまったのです。後の祭りではありますが、もしかしたら政府がへたに保護をせず、自由競争で揉まれた方が道が拓けていたことも考えられます。

       

      現在、宇宙産業はベンチャー企業だけでなく、これまで日本の宇宙産業の中心となってきた大手企業も、民間市場にどんどん出ていきつつあります。たとえばIHIは小型のイプシロンロケットの打ち上げを成功させ、商業衛星の打ち上げに参入しました。1度の打ち上げに複数の衛星を積み込む相乗りのような事業も増えています。

       

      日本の宇宙産業は政府の保護のもとで育成され、技術力はかなり高くなりました。大きなロケットの打ち上げを支える部品には、特定の町工場の職人が製造している特別な品質のものもあります。

       

      宇宙ビジネスは、一見遠い世界の話のように思えますが、食料生産や海運のナビゲーションに限らず、一般の人の普段の仕事や生活で「こんなことができたらいいな」という自由な発想から、無限に発展していく可能性のある身近なビジネスです。

       

      日本の宇宙産業を強く、大きく育てるために色々な民間のアイディアで盛り上げていけば、将来、世界の時価総額ランキングのトップ50に日本の宇宙企業がランクインすることだって考えられます。時価総額ランキングに登場するTOYOTAに大勢の人が勤めているように、日本人の多くが日常的に宇宙企業で働くようになるかも知れません。宇宙産業の発展は、地上の事業や生活も豊かで元気にすることにつながるのです。

       

      渡瀬 裕哉
      国際政治アナリスト
      早稲田大学招聘研究員

       

       

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