介護はすんなりとは軌道に乗らない
介護生活が始まるパターンは大きく分けてふたつあります。
ひとつは加齢による心身の衰えがゆっくり進行し、家族で話し合いを重ねた結果、介護が始まるケース。もうひとつは突然、心身に変調が起こり、すぐにでも介護サービスの支援が必要になるケースです。
比率的に多いのは前者です。ひとりで日常生活のことは何でもできる元気な高齢者はたくさんいます。しかし、それでも衰えは少しずつ進む。バランスを崩しやすくなるなど身体機能に問題が生じたり、認知症の症状が出てきたり……。家族もそうした危なっかしい出来事が重なると、さすがに変調に気づき、サポートするようになります。
ところが、家族のサポートだけでは済まなくなるときが来ます。そこで、介護サービスを受ける話が浮上します。衰えがゆるやかに進行するぶん、介護者となる家族は、役所の担当者と相談したり、介護に対する心の準備をする時間ができるわけです。
ただし、このケースでは乗り越えなければならないハードルがあります。介護を受ける本人が介護サービスを受けることに抵抗を示すことが多いのです。
介護保険は40歳以上の人の加入が義務づけられており、死ぬまで保険料を払いつづけることになります(65歳までは健康保険料に上乗せして納付65歳以上は自治体に納付→年金から天引きされるケースが多い)。その保険料があるから、原則1割負担で誰もが介護サービスを受けられる。
受ける権利をもっているのだから、受けたほうがいいのですが、それをよしとしない意識があるのです。介護サービスを受けるのはプライドを傷つけられることであり、恥と受けとめる人もいます。
また、ケアマネや介護サービス事業者という「他人」が自分の居室に入ってくることに拒絶感をもつ人も少なくないそうです。だから、家族はその説得にひと苦労するのです。
いっぽう、突然、心身に変調が起こり、すぐにでも介護サービスの支援が必要になるのは、転んで足の骨を折ったり、脳梗塞などの病気によって、いきなり要介護になってしまうケースです。介護サービスのサポートがなければ生活していけない状態であり、受け入れるしかありません。つまり、説得で頭を悩ませることはないのですが、突然始まる介護であり、あらゆることが一気に押し寄せてきて、介護をする人は頭がパニックになってしまいます。
ともあれ、どんな始まり方であろうと、介護者はさまざまな葛藤や苦労を味わうのです。
相沢 光一
フリーライター