テレビ番組の地方ロケで有名な寿司屋の大将は、「まずお前らが食べろ」と番組スタッフに寿司を食べさせたという。「気遣ってくれているのか」と思ったビビる大木氏がその理由を聞くと、大将の返事とは。※本連載は、ビビる大木氏の著書『ビビる大木、渋沢栄一を語る』(プレジデント社、2020年12月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

俺の寿司の味を知らないヤツに撮ってほしくない

■「タレントが食べる前に、スタッフが食べろ」

 

テレビ番組の仕事で、石川県金沢市にある寿司店に行かせてもらいました。東京からわざわざ予約を取って食べに来るファンがいるほどの寿司店でした。

 

その店の親父さんは80歳ほどの高齢で、毎日、板場に立つわけでもないようでした。ただ、ファンからは「親父さんが握る日に来たい」という要望があるそうです。番組の収録だったので、親父さんがいるときに行かせてもらいました。

 

親父さんは、僕たち出演者が「じゃあ本番です」となったときに、「おまえたち、タレントが食べる前に、まずおまえらが食べろ」とディレクターとカメラマンに寿司を食べさせようとしました。僕は「気遣ってくれているのかな」としか思いませんでした。

 

「何かあるんですか?」と僕が聞くと、「これは別にテレビと関係ないから、とにかくおまえたちが食え」と言うのです。出演者である僕たちタレントの前に、制作スタッフが先に寿司を食べるというのはあまりないことでした。

 

「どういう理由ですか?」と聞きますと、「俺の握った寿司を、その味を知らないヤツに撮ってほしくない」とハッキリと言われました。

 

「『この人の握った寿司、おいしいよな』とわかったうえで、食べている人間をちゃんと撮ってやってくれ。そのためには俺の寿司の味を知らなきゃ撮れないだろう」

 

それが理由でした。そこにいたスタッフ全員に食べさせて、味わったうえで、「よし、じゃあそれを撮れ」と言ったのです。

 

■一流職人の、一流の粋

 

事前に食べたかどうかで、やはり撮り方が変わるでしょうね。「ああ、なるほどなあ」と思いました。「味を知らないヤツが、俺の寿司を撮れないよ」。そこはもう親父さんの仕事術です。

 

「これはもう、その域にまで達した一流の職人の考え方を学ばせていただいた」と、僕は感動しました。その店に行かないと、この話は聞けません。一流を知るためには行動を起こさないといけないということを、身をもって体感した瞬間です。

 

運よく出演の依頼をいただき、こんな話まで聞かせてもらって、一流のこだわりを知ることができて、本当に勉強になった仕事でした。シャリの硬さ、握り方も全部何か違うなと思いました。いやいや、本当はよくわかんないです、何となくです。

 

ひょっとしたら、そこにいる若手の職人さんが握っても、同じ刺身ですから味も一緒だったかもしれません。しかし、確かに同じ食材を使っても、横にいる他の職人ではなく、親父さんの寿司を食べたいと思いました。その空気をつくるのも立派な一流の職人技です。

 

そうすると結局、その店の窓とか椅子とかカウンターとか、湯飲みとか割り箸一つからすべてが、親父さんのこだわりを起点に始まっていると感じました。僕は「今まさに一流のものを味わう経験をしているんだな」と思いました。

 

こうして考えていくと、物欲はとても大切な欲になります。まったくないのは困りますね。物欲がある楽しさは、生活に活気が生まれ、豊かさをもたらすと思います。

 

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ビビる大木、渋沢栄一を語る

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ビビる 大木

プレジデント社

歴史好き芸人・ビビる大木が、 同郷の偉人・渋沢栄一の遺した言葉を紐解く! 「はじめまして、こんばんみ! 大物先輩芸人と大勢の後輩芸人の狭間で揺れる40代『お笑い中間管理職』の僕。芸人としてこれからどうやって生き…

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