(※画像はイメージです/PIXTA)

多額の資産を持つ富裕層にとって、一定額を地道に積み上げる積立投資は、あまりメリットが大きくないと考えられてきました。しかし、長期的なデータの収集・分析により、ドルコスト平均法に基づいた投資手法には明確なリスク低減の効果があると評価され、再び注目を集めています。メガバンク出身の目白大学短期大学部ビジネス社会学科教授、藤波大三郎氏が解説します。

ドルコスト平均法の最大の利点は、リスクの低減にあり

さらに、元本が50%減少する可能性は5年後でドルコスト平均法は0.14%であるのに対し、一括投資は約16%であると指摘し、ドルコスト平均法は特に価格暴落に効果的な手法であると述べています。これは世界の株式市場でもいえることであり、各市場の株価を日本から投資を行ったとして円ベースで試算しても、同様の結果を得ています。

 

また、標準偏差(データの平均値からのバラツキの程度を表す指標)を用いた分析についても、米国の株価指数であるS&P500を用いて5年運用後の標準偏差はドルコスト平均法が25.05%、一括投資が43.45%であり、ドルコスト平均法に対する一括投資の標準偏差が1.73倍であることを指摘し、そのブレの少なさを示しています(2013年「ドルコスト平均法の有効性の分析」)。

 

こうしてドルコスト平均法の最大の利点はリターンの改善ではなく、リスクの低減であることを明らかになっています。心理的に「ドキドキしなくてすむ」など曖昧な表現がされていたドルコスト平均法ですが、損失についてリスクコントロールの効果があることがわかり、工藤氏の論文は筆者も加入している日本FP学会の学会賞を受賞しました。

 

さらに、京都先端科学大学教授で京都大学客員教授の加藤康之氏も1年から3年の期間、世界の株式にドルコスト平均法で分散投資を行った場合、価格の下振れのリスクは一括投資に比較して小さく、「その差は顕著である」と述べています(2018年「退職後の資産運用の枠組み」)。

 

この投資手法は元本割れに敏感な方にとっては有益な投資手法です。高値をつかむリスクを回避するだけでなく、元本割れのリスクの軽減に効果があるドルコスト平均法は、金融庁が英国の制度を取り入れて作ったNISAに積立投資の面を追加した「つみたてNISA」の制度を加えたことで、その評価が定まったのではないでしょうか。

人間の主観や弱さを排除できる「フォーミュラ投資」

しかし、工藤氏や加藤氏の研究によっても一括投資が否定されるわけではありませんし、標準的なファイナンス理論からのドルコスト平均法への批判があるのは事実です。しかし、野村総合研究所の金子久氏によると、ファイナンスの立場から見ればドルコスト平均法は賢い投資方法とはいえないのでしょうが、一般的な判断力しか持ち合わせていない多くの投資家にとっては、ドルコスト平均法を上回る投資を行うことが極めて困難なのです(2003年「個人投資家の投資行動と普及への課題」)。

 

また、積立投資は一度設定すると投資家の意志に関係なく投資されますので、市場の環境によって投資家の投資判断が不要になります。こうした投資方法を「フォーミュラ投資」と呼びますが、フォーミュラ投資は人間の主観や弱さを排除する方法です。

 

ちなみに、米国の大恐慌で債券と株式に分散投資をしていれば約7年で回復したという試算があるのですが、これに更にドルコスト平均法で暴落後も株式と債券を買い続けたとしたら、約4年で元本を回復できたとする試算もあります。

 

中国の経済的なリスクが問題視され、大きな経済的ショックが来るかもしれないともいわれる現在では、富裕層の方が多額の資金を運用する場合、分散投資に加えて暴落時に効果的とされる積立投資を用いることが堅実ではないかと思います。
 

 

藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師

 

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