「隣家の70代男性がうるさくて眠れない」と苦情…認知症か?と医師が訪問すると【専門医が解説】

「隣家の70代男性がうるさくて眠れない」と苦情…認知症か?と医師が訪問すると【専門医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省「平成29年版高齢社会白書」によれば、2020年度の認知症の推定患者数は600万人超、65歳以上の有病率は約6人に1人の割合となりました。しかし増加する独居者は、症状がかなり進行するまで発見されないこともままあります。早期発見を目的として、医療法人昭友会・埼玉森林病院院長の磯野浩氏は「住まいへの訪問」に取り組んでいたのですが、そこでは…。

近隣住民から「あの人の様子が…」訪問してみると

さて、そんな居宅訪問で、認知症かもしれないという相談を受けることもたくさんありました。

 

たいていは近隣住民から「あのアパートに住んでいるあの人の様子がおかしい」「ゴミ屋敷になっている」「不潔な身なりで徘徊しているようだ」といった理由で、認知症かもしれないと連絡が入り、訪問するのですが、実際にはご近所にはそう見えても、訪問してみたら認知症ではなかったということもままあります。

 

例えばこんなことがありました。

 

「日中、隣家が大音量で音楽をかけている。自分は夜勤で、昼間家にいることが多いのだがうるさくて眠れない」といった苦情が保健センターに入りました。訪問すると、出てきたのは70代の男性で、ガンガンと鳴っている音楽に負けじと、不必要なほど大きな声で話しかけてきます。

 

しかし、会う前には認知症の可能性も頭に入れていたものの、話をしているうちにそれは否定に転じました。

 

というのも、この方は自分の興味のある分野の話題になると周囲におかまいなく何時間でもしゃべれるような勢いでまくしたてるなど、独特の「コミュニケーション障害」が見られる一方、「今日は何曜日?」「おいくつですか?」といった質問には正確に答え、時間や場所、人が分からなくなる「見当識障害」はいっさいなかったのです。

 

また、金銭管理も問題なくできていることが分かりました。認知症の場合は少し前に言ったことやしたことを忘れるといった短期記憶の欠如が特徴の一つですが、この方にはそれもみられません。

 

一見奇妙な言動に思えても、この人には認知機能の低下はなかったのです。

 

結局、認知症ではなく、高齢化した発達障害であろうという結論に落ちつき、治療の必要はなく、定期的に保健師が訪問して経過をみていくことになりました。

 

この方の場合は、仮に診察室で会ったとしても、一連の会話から同じ結論が導き出せた可能性が高いと思われますが、一方では、生活の様子を見ることが見立ての大きな決め手につながった経験もたくさんしてきました。

 

実際の生活の様子を見ることが、適切な診断をするための貴重な情報源を得るのにどれだけ役に立つかを学びましたし、今日に至るまで、認知症を診断、診療するうえでの私の強みになっていると自負しています。

 

 

磯野 浩

医療法人昭友会 埼玉森林病院 院長

※本連載は、磯野浩氏の著書『認知症診断の不都合な真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

認知症診断の不都合な真実

認知症診断の不都合な真実

磯野 浩

幻冬舎メディアコンサルティング

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