(※写真はイメージです/PIXTA)

子のない夫婦が住む家は、妻の父親から相続したものでした。しかし、高齢で介護が必要となった妻は家を離れて介護施設へ。すると、疎遠だった妻の妹が豹変。妻の自宅の相続権を主張しはじめたのです。夫の生活を心配した妻は、なんとか対策を立てようとして…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

父の遺言に従った妹の「胸の内」

森川さんの妻が実家を相続したのは父親の遺言であり、また、長女として両親を介護した立場なら当然と、まわりからも受け止められていました。弟は納得した様子でしたが、どうやら妹は違ったようです。

 

妹は森川さん夫婦に子どもがないことを持ち出し、姉が亡くなったら実家の不動産は自分が引き継ぐべきといいだしたのでした。両親の介護が大変だった時期や、妻が元気なときにはほとんど顔を見せなかったのに、施設に入所したとたん、たびたび姉を訪ねてはやかましく要求を突きつけるのです。

 

妻は疎遠だった妹に自宅不動産を渡す気持ちはないので、夫である森川さんがすべて相続できるよう、遺言を書いておきたいとの希望を口にしました。そこで相談先を探し、筆者のもとを訪れたとのことでした。

公正証書遺言の作成で、着実な遺産相続を実現

遺言書は、公正証書がいちばん確実です。自筆では家庭裁判所での検認が必要になるなど、手間がかかります。森川さんには最初に打合せ時、妻の印鑑証明書や固定資産税の納付明細や登記簿謄本を持参してもらい、お預かりしました。これをもとに遺言書の原稿を作成し、公証役場と打合せをしました。足を運んでいただいたのは1回のみで、遺言書の原稿はファックスのやりとりで確認してもらいました。

 

その後、森川さんの妻の体調の良さそうな日にちを決め、公証人の先生と証人2人とともに、特別養護老人ホームへ出向きました。寝たきりではないものの弱々しく、起きあがるときには森川さんの手を借りている状態ですが、意思ははっきりしていました。公証人の先生が読み上げた原稿の内容について意思確認すると、はっきり「そうです」と答え、自身で署名し、遺言書は完成しました。

 

この公正証書遺言の作成により、妻が亡くなったときには全財産を夫に相続させることができ、不動産の名義変更登記も可能になります。きょうだいには遺留分の減殺請求権がないため、確実に妻の意思が実現できるのです。遺言の執行者は森川さんにしました。

目的を達した高齢夫婦が見せた、安堵の表情

森川さんの妻は、弱った様子でありながらも、凛とした態度で署名をされたのが印象的でした。そして、書き終えると安堵した様子で、満足げに頭を下げられました。少し離れて見守っていた森川さんもホッとした表情となり、帰る筆者たちを施設の玄関まで見送ったあと、深々と頭を下げられました。

 

それからしばらくして、森川さんの妻が亡くなったとの手紙を受け取りました。森川さんはしっかりとした美しい筆跡で、妻の希望がかなえられたことと、スムーズな手続きができたことへのお礼の言葉をつづってくださいました。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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