遺言書があれば、相続人が行方不明でも相続手続が可能
それでは、相続人は、なにもできず行方不明となった相続人が出てくるのを待ったり、探偵を使って行方不明の相続人を探したりするしか方法はないのでしょうか。
法律は、このような場合の手当を考えています。
それは、「不在者財産管理人」という制度です。「不在者財産管理人」という制度は、行方不明の方の財産を管理する人を裁判所が選任してくれて、行方不明の方の財産を管理してくれる制度です。
この不在者財産管理人の制度を利用すれば、行方不明の相続人がいても不在者財産管理人と遺産分割協議や預金の解約、賃貸借契約の締結などすることができ、行方不明の相続人がいて、なにもできずに困ったという状態が解消されることとなります。
したがって、「Xさんを探さないとY子さんは遺産を取得することができない。」とする選択肢②は誤りで、選択肢③が正解となります。
不在者財産管理人を裁判所に選任してもらうには、住民票上の住所にはいないこと、転居先はわからないこと、行方不明の相続人がいつどのような経緯で行方不明となったか、その後の連絡状況などの事情が分かる資料を裁判所に提出する必要があります。
行方不明の相続人がいる場合、相続発生後では、不在者財産管理人を選任してもらえば解決することとなりますが、逆に言うと、裁判所に不在者財産管理人を選任してもらわなければ解決できないこととなります。
通常、行方不明の相続人がいることは、被相続人の生前からわかっているはずです。そこで、行方不明の相続人がいる場合は、被相続人の生前に遺言書で備えることが可能です。
本件で言えば、遺産は全てY子さんに相続させるという遺言書があれば、貸マンションは全てY子さん単独でY子さん名義にできますから、賃貸借契約はY子さん1人で締結することができます。
預金も全てY子さんが解約して自由に使うことができますから、多額の相続税もAさんの残してくれた預金から支払うことができます。
このように遺言書があれば、行方不明の相続人がいても、不在者財産管理人の制度を利用せずに、相続手続や賃貸事業を円滑に行うことができるのです。
身内に行方不明者がいる方は、遺言書を作成することをお勧めします。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士
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