※画像はイメージです/PIXTA

昨今、日本社会に定着してきた「民泊」。しかし、「トラブルが多そう」というイメージは未だ拭えていないでしょう。ここでは、「マンションの区分所有者に民泊をやめさせたい」という管理組合からの質問に、香川総合法律事務所・代表弁護士の香川希理氏が答え、解説していきます。 ※本連載は、書籍『マンション管理の法律実務』(学陽書房)より一部を抜粋・再編集したものです。

周囲の住民の「平穏な生活」が鍵

(1)標準管理規約コメント(12条関係)

 

平成29年8月29日の標準管理規約改正の前後を問わず「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」旨の規定については、「住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する。」というコメントが付されています。

 

(2)コンメンタールマンション標準管理規約

 

さらに、『コンメンタールマンション標準管理規約』53頁においては、同規定について、①許される場合、②許されない場合、③許される余地がある場合について、以下のとおり分類しています。

 

①許される場合

 

当該専有部分を居住用借家として賃貸したり、自己の非日常的使用(例えば、週末や出張時のみの使用)や空住戸(ないし荷物の保管場所)としておくことは許されるものと解される。

 

②許されない場合

 

たとえ、その利用方法が平穏さを確保できるもの(例えば、専ら事務所としての利用やペンションとしての利用等)であっても、住宅以外の用途での専有部分の使用は許されないものと解される。

 

③許される余地がある場合

 

自己の住戸で、例えば小規模の華道・茶道・書道教室や学習塾を開く場合などにおいて、それが当該マンションの平穏さや良好な住環境を害しない限りにおいて許される余地もあろう。

 

(3)裁判例

 

民泊に関する裁判例としては、大阪地裁平成29年1月13日判決(消費者法ニュース111号313頁)がありますが、同裁判例においては、住宅宿泊事業が「専有部分を専ら住宅として使用する」旨の規定に違反するか否かについては、直接言及されていません。

 

民泊以外の事業が「専有部分を専ら住宅として使用する」旨の規定に違反するか否かが争点となった裁判例は多数存在します。それらの裁判例の傾向としてはおおむね以下のとおりです。

 

①「専有部分を専ら住宅として使用する」旨の規定に違反するか否かについては、住居以外の使用か否かの形式面のみで判断する裁判例と、当該マンションの平穏さや良好な住環境を害していないかを実質的に判断する裁判例に分かれています。

 

②どのような場合に実質的に判断するかについては、上記の『コンメンタールマンション標準管理規約』の考え方に近いといえます。

 

すなわち、一見して明らかに住宅以外の用途(事務所)での使用である場合には、実質面まで踏み込まずに形式面のみで判断する傾向が強いといえます(税理士事務所使用【東京高判平成23・11・24判タ1375・215】、法律事務所使用【東京地判平成25・9・19ウェストロー】、会社事務所使用【東京地裁八王子支部平成5・7・9判タ848・201】など)。

 

一方、「住宅を活用してサービスを提供する」という側面がありうるものについては、実質面に踏み込んで判断する傾向が強いといえます(シェアハウス【東京地判平成27・9・18判秘】、カイロプラクティック治療院【東京地判成17・6・23判タ1205・207】、保育所【横浜地判平成6・9・9判夕859号199)、託児所【東京地判平成18・3・30判時1949・55】など)。

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トラブル事例でわかる マンション管理の法律実務

トラブル事例でわかる マンション管理の法律実務

香川 希理

学陽書房

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