都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにともなう引っ越しでコミュニティは崩壊し、高齢住民たちの生活はガラリと変えられてきました。隣近所の顔がわからなくなった住民たちにとって、「孤独死」という問題は非常に大きなものとなっています。都営団地の実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「警察を呼んで入ってみたら」…都営団地と独居老人たちの悲惨な実態 (※写真はイメージです/PIXTA)

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「腰が痛いから掃除はできない」自治会の高齢化が加速

桐ヶ丘団地の住民たちとの付き合いが長くなっていく中で、「高齢者ばかりだから高齢者が頑張っている」と冗談を言っていた自治会の役員たちの老化もしだいに目立つものになっていった。

 

持病の悪化などで入退院を経験してからは、地域活動や日常活動が難しくなる場合もあった。そもそも建替えを歓迎していなかった住民も、本人や配偶者が車いすを使うようになると、エレベーターがある新築棟を斡旋されて引っ越していった。

 

このように高齢化が進む中で、「地域自治会」は住民全員が関わっている組織であるだけに、日常において最も重要なネットワークとして存在している。

 

新築棟に引っ越して「近所の名前さえ分からない状態で、フロア長となって大変だった」と言った山崎さんが、そのおかげで隣近所と馴染むようになったことからもわかるように、自治会は住民たちがネットワークを築く重要な契機となる。

 

だからこそ、定期的な掃除や会議があるのに、なぜ住民どうしの顔合わせができなかったり、隣りが誰かわからなかったりするのか、不思議でもあった。

 

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入居する人が、私は掃除はできません。何もできませんと言うのよ。最初からお断りですから。あいさつ代わりに来ますよ。腰が痛いとか、足が痛いとか言って、やってくれない。障害があったり、お馴染みがなくてお隣りさんと話を持たない人があったり。最近は、10軒の中で5、6軒が掃除に出る。

 

これ以上高齢化したら、自治会の運営はできないです。区にも都にもそう言っています。高齢化は年々進みますから、これから何年できるかわかりません。役員の具合が悪くなってできなくなると、バトンタッチもできない。(2015年8月、自治会長・鳩山さんへのインタビュー)

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自治会に顔を出さない住民や、自治会のネットワークから消えてしまう住民が増えつつあり、自治会活動から抜けてしまう流れは、移転により加速化されている。

 

「これ以上高齢化すると、自治会は運営できない」という鳩山さんの発言は、自治会の維持にとどまらず、団地コミュニティの消失への警告でもある。