(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍は巨大化するアマゾンの弱点をあぶり出しました。巨大企業は尋常ではない規模とペースで拡大を続けていかねばなりません。その妨げとなるのが、人間の脆さや弱さだといいます。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

商品配送の4割が配送ドライバー人件費

「莫大」というのは決して誇張ではない。たとえば、2018年、アマゾンの商品配送にかかったコストは約270億ドルだった。その40%ほどが配送ドライバーの人件費である。だからドライバーが標的になるのだ。

 

2020年、アマゾンはこの課題に切り込む姿勢をはっきりと示した。自動運転技術開発のズークスを13億ドルで買収し、無人のロボットタクシーの構想もぶち上げた。その新規事業に自動運転の配送車両の開発が含まれていることは疑いない。となれば、アマゾンの配送部分のコストは激減するはずだ。

 

結局、パンデミックは、こうした企業にとって、ロボットなど自律システム技術に突き進む絶好の口実になったのである。たとえば、2020年2月、武漢でウイルスが猛威を振るっていたころ、京東商城(JDドットコム)は、いわゆる自動運転レベル4に相当する自律走行ロボットで医療機関への配送に乗り出した。レベル4という水準は、高度運転を意味し、ジオフェンス(位置情報を使った仮想的境界線)で囲まれた特定エリア内であれば、まったく人が介在することなく走行できる状態を指す。

 

京東が自動運転車導入の野望を覗かせたのは、これが初めてではない。あるレポートによれば、中国の自動運転車メーカー、新石器慧通科技(ネオリックス・テクノロジーズ)は、ちょうどウイルスで自宅待機命令が出てガラ空きとなった公道を利用して、無人配送車を開発した。

 

同レポートは、「有力ネット通販のアリババや京東が(中略)同社の小型配送ロボット約200台を発注した」と伝えている。そうした無人配送のイノベーションが見られるのは、中国に限った話ではない。グーグルを傘下に持つアルファベットの子会社の1つ、ウェイモでは、13台の自動運転トラックを保有し、現在、テキサス州の州間高速道路で公道走行試験を実施している。

 

今後、ロボットの普及が進むのは食料品販売をおいて他にはないだろう。パンデミック前のアメリカでは、食料品支出全体のうち、オンライン取引はわずか3%にとどまっていた。

 

だが、パンデミックになってこの数字が15%に上昇している。パンデミック前の予想では、オンラインの食品売上高は2025年までに20%に増加すると見られていた。食品のオンライン購入が急増している今となっては、この見通しは少々的はずれの感がある。アメリカの場合、オンラインの食品購入がすでに6月にはパンデミック前の水準の6倍に跳ね上がっている。

 

したがって、急増する売り上げや配送量にアマゾンが対応するためには、物流・配送の面で、それなりの対策やイノベーションが必要になるのは当然だ。

 

とはいえ、小売業界という食物連鎖の頂点に立ち、人間の労働力を使っているがゆえの弱みや無駄を少しでも排除したいと考えているのは、アマゾンだけではない。こうした業者がコストを抑えつつ生産性を高めるには、できる限り「人間」という要素を排除する方法を探す必要がある。

 

食物連鎖の頂点に立つ怪物企業にとって、たとえ世間で後ろ指をさされようが、経済的メリットは大きい。2018年のマッキンゼー・アンド・カンパニーによる調査によれば、玄関先まで商品を届ける自動配送ロボットを導入するだけでも、都市部の配送コストは10~40%の削減が見込めるという。アマゾンだけで、年に100億ドル以上の削減が可能ということだ。

 

ロボット労働力は、もはやサイエンスフィクション(SF)ではなく、サイエンスファクト(科学的事実)になっているのである。使い捨て労働力が人間ではなくなるという、過去に例のない時代に突入しているのだ。それがいいことなのかどうかを語るのは時期尚早である。
 

 

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

 

 

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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