(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍は巨大化するアマゾンの弱点をあぶり出しました。巨大企業は尋常ではない規模とペースで拡大を続けていかねばなりません。その妨げとなるのが、人間の脆さや弱さだといいます。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

小売業者の従業員の処遇改善は待ったなし

その原因とは「人間」である。人間は病気になる。人間は過ちを犯す。人間には、一緒に過ごしたい家族がいる。そして何よりも、人間は人間らしく扱ってもらいたいという期待を抱く。巨大企業は尋常ではない規模とペースで拡大を続けていかねばならない。その妨げとなるのが、人間の脆さや弱さなのだ。

 

2017年の映画『ブレードランナー 2049』で、ジャレッド・レト扮する科学者ニアンダー・ウォレスが「文明が飛躍するときはいつでもその陰に使い捨ての労働力があった」と語るシーンがある。 

 

はるか遠い昔から、人類の進歩は、消耗品のように使われる大量の労働者の血と汗と涙で実現されてきた。エジプトの巨大なピラミッドは、膨大な数の貧しき農民の手で築かれた。ニューヨークシティの摩天楼は、ヨーロッパから絶えず流れ込む移民の手で築かれた。しかも、エンパイアステートビルディングだけでも建設中に十数人の命が奪われている。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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現在、バングラデシュの縫製工場では、労働者(ほとんどが女性)が時給33セント(約35円)という低賃金で働いている。資本主義が誕生したときから、決して日の当たることのない礎を担ってきたのが、使い捨て労働力なのだ。

 

小売業界とて例外ではない。過去40年間、世界の小売りの現場は使い捨て労働力に依存してきた。その多くが高卒で、ひどく低賃金なうえに、何かあればすぐにしわ寄せがいくのが彼らだ。しかも割に合わない危険な仕事を任されることも多い。特に女性は、小売りの低賃金労働者に不自然なほど多い一方、管理職・役員のポジションには不自然なほど少ない。

 

その40年間というもの、小売りの現場で働く人々が置かれた窮状に、顧客も見て見ぬふりを決め込んできたが、新型コロナウイルス感染拡大で態度が変わった。小売りの現場の労働者は社会でも最低賃金と言われる。

 

ぎりぎりの生活を強いられているというのに、自身や家族の命を危険にさらしてまで、パンデミックの最中にオンライン注文の食品の箱詰め作業にせっせと取り組み、消費者の安全な買い物を支えていた。ようやく世の人々はこの気まずい現実を直視するようになり、現場の労働者が置かれている状況が浮き彫りになった。

 

これを受け、一部の小売業者は現場の労働者を「英雄」として称え、賃金の引き上げに動いた。また、毎日現場に出勤してくれるスタッフなしにはビジネスが成立しない事実に感謝の念を示すようになった。だが、消費者や労働組合の厳しい目があまり向けられなくなると、こうした小売業者の多くが何ごともなかったかのように上乗せ賃金を廃止し始めた。そして、会社は空前の増収増益を享受したのである。危険手当の撤廃という仕打ちは、「倒産せずに済んだよ、お疲れさん」と言っているようなものだ。

 

この状況を憂慮した全米食品商業労組(UFCW)の代表が、次のようにコメントした。

 

「手袋とマスクを着用し、安全な対人距離を保って働いていること自体、危険な環境で働いている証拠ではないか。(中略)この時点で危険手当を廃止するのは、明らかに不公平である」

 

賛同した消費者や政府もただちに激しい非難の声を上げ、悪質な企業は世論という名の法廷で裁かれることになった。2020年4月にモーニングコンサルトが実施した調査で、その理由が浮かび上がった。パンデミックを背景に消費者の90%が「ブランド各社の従業員の処遇が適切かどうかを重視する」と答えており、驚くことに品揃えの良さと並ぶ重要な条件に掲げている。さらに、購入を左右する条件の上位5項目に「従業員の処遇」を挙げた回答は50%近くに上った。

 

つまり、コロナ禍で、小売業者は従業員の処遇に関して待ったなしの状況に追い詰められたと言える。従業員にまともな最低賃金を払うか、それとも、どこかから別の「使い捨て労働力」を探してくるかのどちらかだ。

 

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