(※画像はイメージです/PIXTA)

患者満足の向上は、苦情、医療過誤訴訟を軽減させ、死亡率の低下に貢献しているという。患者満足は、ロイヤルティを形成し、新しい患者を連れてくる効果を発揮するなど、多くの結果を導く重要な指標となっている。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

教育レベルが低いほど満足度が大きい傾向に

■患者満足と患者属性の関係

 

(1)患者満足と年齢

 

まずは、年齢と患者満足の関係について、実証研究の結果を示す。多くの調査において、年齢の上昇は患者満足に影響を与えていることを報告している。

 

Hall and Dornan(1990)は、米国における患者の社会人口統計の変数を活用し、患者の特徴と満足について調査した。その結果、年齢の上昇は患者満足に有意な影響を与えていた。この理由について、医師は高齢の患者に対して若い患者よりも丁寧で配慮のある態度をとり、若い患者に対しては否定的な態度をとる傾向にあることを指摘している。

 

Williams and Calnan(1991)は、英国カンタベリーの病院において、18歳以上の735 名に対して調査を行った。有効回答は454名であった。調査は、医師の治療技術、治療に関するアドバイス、患者の待ち時間などを含めた病院のケアについて確認した。その結果、60歳以上の患者は、18~39 歳までの若い患者や、40~59歳までの中年の患者よりも、ケアに満足していることを報告している。

 

Cohen(1996)は、スコットランド開業医に登録されている外来患者を対象とした調査において、年齢が若いほど患者満足は低いことを明らかにしている。その理由として、患者よりもはるかに若いスタッフは、高齢の患者に対し、尊敬と配慮をもって対応する傾向にあり、また、高齢の患者は健康管理に関してより低い期待を持っているため、満足を得やすい。

 

さらに、ケアと治療の選択肢に関して、高齢の患者は細部にあまり関心がなく、若い患者よりも何を言われているのかを疑問視する傾向が少ないことを指摘している。特に虚弱な高齢患者は、自分について家族や社会の負担だと感じており、不満を表さないことも理由として挙げている。

 

Sitzia and Wood(1997)は、高齢者は医師からの情報をあまり期待しないことを報告しており、年齢が高いと医師に対してあまり批判をせず、謙虚な期待を持つことから、年齢が高い方が若い患者よりも、より満足しやすいことを示唆している。

 

若い患者に関する調査について、Williams and Calnan(1991)は、若い患者は、指示や医学的なアドバイスにあまり従わない傾向があることを指摘している。Khayat and Salter(1994)は、若い患者はプライマリ・ケアにおける診察について満足をしていないことを明らかにしている。

 

我が国では、田久(1994)による大学病院の外来患者の調査において、54歳までの患者と比べ55歳以上は全体的に満足が高かった。永井ほか(2001)は、病院、診療所の外来患者の調査で、年齢の上昇により満足が増加する傾向がみられたことを主張している。

 

一方、Bikker and Thompson(2006)は、電話インタビューでの調査で、外来患者について年齢は患者満足に影響していないことを報告している。また、池上・河北(1987)も、病院119 施設による調査において、満足は年齢に影響されていないことを報告している。

 

以上により、多くの研究で、患者満足と患者の年齢との関係について、高齢者は若い人に比べ満足が高く、若い人は満足をしないことを結論づけている。

 

(2)患者満足と学歴

 

続いて、学歴も患者満足に影響を与えており、教育レベルが低い患者ほど、患者満足が大きい傾向にあることが報告されている(Sitzia & Wood,1997)。

 

Hall and Dornan(1990)は、患者の教育水準が低いほど、満足が高い傾向にあることを確認している。Anderson and Zimmerman(1993)による2カ所のミシガンの診療所における調査の結果では、教育水準は診察への患者満足に有意に関連する変数であり、教育水準が低い患者は最も満足していたことを明らかにした(Sitzia & Wood, 1997)。いずれも、教育水準が低い場合、患者は満足を得やすいことを報告している。

 

(3)患者満足と性別

 

患者の性別は、患者満足に影響を与えないことが一般化されており、Hall and Dornan(1990)、Cohen(1996)は、性差は患者満足に有意な影響を与えていないことを明らかにしている。しかしながら、Khayat and Salter(1994)は、男性より女性の患者が全般的に総合診療医に対して満足していることを報告している(Sitzia & Wood, 1997)。

 

Bikker and Thompson(2006)も女性は男性より患者満足が高いことを明らかにしている。また、Hall et al.(1994)は、若い女性の医師によって診察された男性患者の満足は最も低いことを報告している(Sitzia & Wood, 1997)。今井ほか(2000)は、大学病院において性別と年齢を加味した調査を行っており、女性は年齢が高まるほど満足が上昇する傾向があるが、男性は40 代を満足の底部とするV 字型を呈していた。

 

さらに、患者満足の性差は年齢階層別で異なり、20代、30代、70代では男性が高く、40~60代では女性が高い結果が報告されている。

 

以上のように、実証研究では女性の方が男性より満足を得ていることが報告されている。

 

■まとめ

 

本稿では、患者満足の視点から患者インサイトを探った。
(第4回「患者満足」とは何か…継続受診、新規患者を増加させる決め手 )
(第5回「患者満足」をどう測定…「期待概念」に着目した3つのモデル )

 

英国、米国、そして日本の研究を中心として、外来診療における患者満足研究を整理した。医療分野における適切なマーケティングのためには、制度や施設の状況を踏まえ、患者が何を求めているのか、患者インサイトを理解する必要がある。

 

患者満足は、患者の主観であり医学に関する適切な評価は困難であるとの見解がいまだにあるものの、患者満足の向上は、患者、医師をはじめとする医療従事者の両者に有効な結果を導く。継続的に患者の医療管理を行うためには医療機関が永続的に存続する必要があり、患者に信頼される確かな経営が求められる。そして、患者に選択してもらうためには患者主体の医療サービスを提供することが不可欠である。

 

なお、患者満足の実証研究を確認すると、多くが大学病院もしくは大規模病院の単一医療施設を対象とした研究であり、その医療施設の特徴が影響する可能性がある。また、内科外来、プライマリ・ケア、精神科外来など、診療科を対象とした調査であり、疾患に視点を置いていないため、治療の特徴などの背景が不明である。

 

患者満足を向上させる要因について、実務的示唆を得るためには、疾患を特定して、その治療の背景を確認することが必要だと考える。また、慢性疾患患者の外来診療に関する患者満足を確認するためには、診療所に通院する患者を対象とする必要があるが、診療所に焦点をおいた研究はわずかである。さらに、医師、看護師を対象とする満足調査は多いが、診療所における薬剤師や検査技師、放射線技師、理学療法士などの医療スタッフを対象とした、満足研究は見当たらない。

 

 

杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長

 

 

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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