(※写真はイメージです/PIXTA)

バブル以降、投資機会を失った日本企業は、その結果として多額の〈現預金〉を抱えることになりました。投資家はしばしばそれを「持ちすぎだ」と批判し、減らすよう強く主張しますが、果たしてそれは正しいのでしょうか。また、減らすことでどんな影響が出るのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

少なすぎる現預金が「日本経済のリスク」になる

企業が倒産すると、株主が投資額を失うだけではなく、さまざまなところに大きな損失が出ます。まずは、企業が返済しきれなかった借金の分を銀行が損します。従業員は失業して所得が得られなくなります。納入業者も売り先を失いますし、悪くすると売掛金が回収できなくなります。買い手も、お気に入りの商品が販売停止になって困るかもしれません。

 

企業には、バランスシートに載っていない資産がたくさんあります。ノウハウや信用、顧客リスト等々は、企業にとって貴重な財産ですが、企業が倒産すれば雲散霧消してしまいます。これは大変もったいないことです。

 

失業した元労働者が所得を失えば、消費をしなくなるので、景気が悪くなります。納入業者も連鎖倒産するかもしれません。極端な場合には銀行の損失が膨らんで金融危機が発生するかもしれません。

 

筆者は日本経済を見ているので、そうした立場から考えると、企業の倒産はぜひとも避けるべきで、そのためには保険料は惜しむべきではない、と考えるわけです。

 

問題は、企業経営者がなにを考えるのか、ということです。企業経営者は、従業員の雇用を守ることと、株主に報いることと、自分の保身のことは考えるでしょうが、日本経済のことまでは考えないはずです。

 

「わが社が倒産すると景気が悪くなるから、倒産しないように十分な保険料を払おう」とまでは、恐らく思わないでしょうから。そこが筆者としては残念なところですが、仕方ありませんね。

 

従業員の雇用と株主の利益のどちらを重視するかについては、バブル期までの「日本企業は従業員の共同体」といわれていた時代の発想と、その後に流行るようになった「企業は株主が金儲けのために作った道具」という米国的な発想の綱引きといったところでしょう。

 

自分の保身については、倒産を回避するという点で、従業員の雇用を守ることと同様に多めの現預金を持つインセンティブとなるはずです。後述の極端な場合のような例外はあるかもしれませんが。

投資家の利益追求が、銀行と日本経済を追い詰める?

以下では、極端な場合に何が起きるのかを考えてみましょう。投資家が徹底的に自分たちの利益を追求する場合です。

 

まず社長には、金儲けの上手な人を選ぶでしょう。そして、このようにいうはずです。「社長は株価を上げることだけを考えろ。株価が上がったら莫大なボーナスを払う」と。

 

社長は、現預金を使って自社株を買い戻すはずです。そうすれば、発行ずみの株が減りますから、同じ利益でも1株あたりの利益が増えて、株価が上がります。それによって、社長は莫大なボーナスを得るでしょう。

 

そのために翌年会社が倒産したとしても、社長は巨額のボーナスをもらっているのでなにも困りません。もし翌年も会社が存続していたら、再び利益を使って自社株を買い戻せばいいので、決して現預金を積み増して会社の倒産を防ごうなどとは考えないでしょう。

 

株主は、たとえば株価が2倍に上がったところで持ち株を半分売って投資額を回収しておけば、会社が倒産しても損をするわけではありませんから、会社が倒産せずに大儲けできる可能性に賭けることができる、というわけです。

 

こうして、株主が極端に利益を追求すると、社長も同じように極端に利益を追求するようになり、銀行も従業員も日本経済も一方的にリスクを負わされることになりかねないわけですね。

 

本来は銀行が「現預金が少ない会社は倒産可能性が高いから金を返してもらう」といえばいいのでしょうが、貸出先がなくて困っている銀行は貸出競争をしているわけで、返済要請など行えるはずもない…というのが現実でしょう。

 

 

今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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