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連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター【第39回】

フェイクニュース・デマ情報への法的対応・基礎編―②改正プロバイダ責任制限法による発信者情報開示手続と企業の対応

フェイクニュース名誉毀損

フェイクニュース・デマ情報への法的対応・基礎編―②改正プロバイダ責任制限法による発信者情報開示手続と企業の対応 (※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『フェイクニュース・デマ情報への法的対応・基礎編―②改正プロバイダ責任制限法による発信者情報開示手続と企業の対応』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

2. プロバイダ責任制限法による発信者情報開示

(1)プロバイダ責任制限法の概要と発信者情報開示請求

プロバイダ責任制限法(以下「プロ責法」といいます。)は、インターネット上の情報流通による権利侵害について、被害者の救済と発信者の表現の自由等のバランスに配慮しながら、プロバイダが情報開示を行わなかった場合(プロ責法3条1項)、行った場合(プロ責法3条2項)のそれぞれについてプロバイダの免責要件を規定することで、SNSや電子掲示板等の運営者であるプラットフォーム事業者(ホスティングサービスプロバイダ。以下「HSP」といいます。)が虚偽情報・誹謗中傷等の権利侵害情報を削除するなどの送信防止措置を取ることを可能にしています。

 

また、プロ責法4条は、匿名による権利侵害情報の発信によって被害を受けた者が、加害者である発信者に対して権利行使を行うことを可能にするため、被害者のプロバイダに対する発信者情報開示請求権を定めている。これにより、被害者は、SNS・電子掲示板等の運営者であるHSPや、発信者にインターネットへのアクセスを提供している通信事業者(アクセスプロバイダ)に対して、開示請求権を行使することが可能となっています。開示請求権の行使は、理論上は裁判手続によることなく行使し、プロバイダがこれに任意に応じることも可能ですが、実際には、裁判外での任意の開示は限定的なケースを除いて行われていません。プロバイダの側から見れば、開示請求権の有無について誤った判断をして任意に開示をした場合には自らが通信の秘密を侵害したものとして法的責任を負うリスクがあることから、裁判外での任意開示には慎重になる傾向があるものと考えられます。

 

(2)従前の制度の問題点

匿名で権利侵害情報が発信された場合、被害者としてはプロ責法に基づいて、まずは投稿先サービスの運営者であるHSPに対して発信者情報の開示を求めることになりますが、通常、HSP自身は発信者の住所・氏名等の情報を有していないことが多いと考えられます。このため、発信者を特定するためには、①HSPに対して権利侵害情報の発信時(投稿時)のIPアドレス等の情報の開示を求めた上で、②当該IPアドレス等を基に、発信者が投稿に用いたアクセスプロバイダを特定し、アクセスプロバイダに対して発信者の住所・氏名等の情報開示を求めることになります。上記のとおり、この情報開示請求にはいずれも裁判手続を要する場合が多い※2ため、被害者としては上記①・②の開示請求に関する裁判を経た上で、ようやく③発信者に対する損害賠償請求訴訟等の提起が可能となっていたわけです。このように、従来の制度では発信者情報開示の手続は、時間的にも手続的にも被害者側に重い負担を課すものであったといえます。

 

※2 ①のHSPに対する情報開示請求については仮処分手続によることが可能であるが、②については、ひとたび個人情報の開示がなされた場合、仮に開示が妥当でなかったと事後に判明しても事実上回復不可能であることから、正式な訴訟手続が必要であると実務上解されている。

 

また、アクセスプロバイダが通信ログを保管する期間には時間的制限があるため、①のHSPに対する開示請求が認められ、②のアクセスプロバイダへの請求を行った段階では、既に通信ログが削除されてしまっており、権利侵害情報の発信者が特定できないというケースも生じていました。

 

(3)改正プロ責法による対応

上記のような従来制度の問題点を是正するため、改正プロ責法においては以下のような是正策が採られることとなりました。

 

★非訟手続の導入

 

従来の手続では、発信者の特定のためには、①・②の2回の裁判手続を経ることが通常必要であったところ、改正法の下では、発信者情報の開示を一つの手続で行うことを可能とする新たな裁判手続が創設されました(改正プロ責法8条)。同手続は、通常の訴訟とは異なる「非訟手続」(裁判所が必要に応じて後見的に関与し、判決ではなく決定により開示命令がなされる)として行われることとされています。

 

同手続において、申立人は、まず、HSPに対するIPアドレス等の開示命令とアクセスプロバイダに関する情報の「提供命令」の申立てをします(改正プロ責法8条、15条1項)。裁判所による提供命令がなされると、HSPは申立人に対し、アクセスプロバイダの名称等の情報を提供します(改正プロ責法15条1項1号イ)。

 

申立人は、これを受けて、開示されたアクセスプロバイダに対し、発信者の住所・氏名の開示命令及び、アクセスプロバイダにログの保存を命じる「消去禁止命令」の申立てをします(改正プロ責法16条1項)。

 

そして、申立人が、アクセスプロバイダに対して開示命令の申立てをした旨をHSPに通知することにより、HSPはアクセスプロバイダに対してIPアドレス等の情報を提供することになります(改正プロ責法15条1項2号)。

 

そして、最終的に、アクセスプロバイダに対して裁判所が開示命令を発令し、発信者情報が申立人に開示されます。手続的には若干複雑であるように見えますが、同一の裁判所において審理されること、両手続が併合して行われることが想定されていることから、従来よりも円滑・迅速な審理により短期間で発信者情報が開示されることが期待されます。

 

★ログイン型投稿への対応

 

SNS・電子掲示板等の中には、各ユーザにアカウントを発行し、ユーザが当該アカウントにログインした状態で投稿等を行う形式のサービスも多く含まれます。このようなログイン型投稿の場合、投稿時のIPアドレス等がログに保存されず、ログイン時のIPアドレス等のみが保存される仕様となっているケースがあります。このようなケースでは、投稿時、すなわち権利侵害情報の発信時におけるIPアドレス等は記録されていない一方、ログイン時のIPアドレスと発信時のIPアドレスが同一であるかは明らかでないことから、ログイン時のIPアドレスが発信者情報として開示の対象となるかどうかについて裁判例においても見解が分かれていました。

 

改正プロ責法では、発信者の特定のために必要となる一定の要件を満たす場合には、ログイン時のIPアドレス等の情報を開示請求の対象とすることを明確化するとともに、ログイン時に経由したアクセスプロバイダも開示請求の相手方とすることを定めています。

3. 今後の展望

上記のとおり、改正プロ責法により、発信者情報開示の手続については相当の迅速化が図られることが期待されており、フェイクニュース・デマ情報に接した企業としては、今まで以上に積極的に法的措置を講じることを検討すべきと考えられます。

 

他方で、改正プロ責法の下でもなお、発信者情報開示のための法的手続には一定の期間がかかることが想定されます。また、裁判外の任意開示についても、各事業者がどの程度これに応じるかは定かではありません。そして、発信者情報の開示手続がなされている間にも、虚偽情報は広範囲に拡散していき、これを事後的に打ち消すことは困難になっていきます。更に、仮に投稿者に対して刑事罰が科されたり、民事上の法的責任を追及したとしても、拡散された虚偽情報を全て追跡・補足して削除することは不可能です。したがって、企業としては、発信者情報の開示に向けた対応のみを進めるのではなく、これに並行して、早期にHSPに対して投稿の削除を求めると共に、メディア・消費者・取引先・監督当局・投資家・従業員等の多様なステークホルダーに対して、正しい情報を提供したり、低下したレピュテーションの向上策を講じる必要があります。

 

次回以降、これらの対応や、不祥事発生時の二次被害としてのフェイクニュース・デマ情報への対応についてもご紹介していく予定です。

 

 

沼田 知之
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2004年東京大学法学部(LL.B.)卒業 、2006年 東京大学法科大学院(J.D.)修了。2020年より、大成ロテック株式会社社外取締役、東京大学法学部非常勤講師。

企業の危機管理、独占禁止法/競争法対応を専門とする。

危機管理分野においては、海外公務員贈賄、製造業の品質問題、営業秘密の漏洩、粉飾決算・インサイダー取引、相場操縦等の金融商品取引法違反、環境法令違反、反社会的勢力問題、従業員による不正行為等の案件を広く扱った経験を有しており、事実調査、行政当局・刑事当局対応(公正取引委員会の確約手続への対応、日本版司法取引への対応を含む)、マスコミ・投資家・消費者対応、原因究明、再発防止策の立案等を含む戦略的な対応を行う。

独禁法/競争法分野においては、刑事事件・行政事件を含むカルテル・入札談合案件、私的独占・不公正な取引方法等の単独行為案件、景表法違反案件等に関与し、国際カルテル等海外当局対応も数多く扱っている。また、国内外の企業結合審査、業務提携に係る公取委・競争当局対応の経験も豊富である。

個別案件を離れて、贈収賄防止体制、競争法管理体制、内部通報制度、内部監査/モニタリング等、法令遵守の仕組み作りへの助言も多く手掛けており、特に機械学習・データアナリティクス、テキストマイニング等の高度テクノロジーを活用した体制整備に通じている。


【主な著書等】

「法務担当者が知っておくべき不祥事予防のメニュー」(Business Law Journal 2021年1月号)、「プラットフォーム時代の『多元的競争』に向き合う法」(Web日本評論「弁護士が推す!実務に役立つ研究論文」、2020年)、「企業不祥事における取締役の監視義務違反」(Web日本評論「弁護士が推す!実務に役立つ研究論文」、2020年)、「不正調査・リスク管理におけるAI・機械学習の活用―法的分析による仮説・検証アプローチ」(朝日新聞社Website「法と経済のジャーナルAsahi Judiciary」、2020年)、「AIに関する法規制と行政手続・刑事手続」(Web日本評論「弁護士が推す!実務に役立つ研究論文」2019年)、 「内部通報受領後の初動対応・不正調査の留意点」(共著、Business Law Journal 2019年6月号)、「企業法務における憲法」(Web日本評論「弁護士が推す!実務に役立つ研究論文」、2018年)、 「日本版司法取引制度への実務対応-平時の備えを中心に-」(共著、商事法務 2167号、2018年)、 『資本・業務提携の実務(第2版)』(共著、中央経済社、2016年)、『危機管理法大全』(共著、商事法務、2016年)、『役員・従業員の不祥事対応の実務~社外対応・再発防止編~』(共著、レクシスネクシス・ジャパン、2015年)、「米国反トラスト法の国際的適用範囲をめぐる民事訴訟の動向」(『NBL No.1054(2015年7月15日号)』)、『実例解説 企業不祥事対応 - これだけは知っておきたい法律実務(第2版)』(共著、経団連出版、2014年)、『資本・業務提携の実務』(共著、中央経済社、2014年)、『条解 独占禁止法』(共著、弘文堂、2014年)、『インサイダー取引規制の実務[第2版]』(共著、商事法務、2014年)、「独禁法70条の15に基づく審判事件記録の閲覧謄写について - 東京高判平成25・9・12」(『ジュリスト No.1462(2014年1月号)』)、「金融商品取引法の課徴金制度における偽陽性と上位規範の活用による解決」(『旬刊商事法務 No.1992(2013年3月5日号)』)、「事業者の行為と他事業者の排除との因果関係(JASRAC事件)」(『ジュリスト No.1445(2012年9月号)』)、「The Public Competition Enforcement Review - Fourth Edition - (Japan Chapter)」(『The Public Competition Enforcement Review - Fourth Edition -』, 2012)、『判例 米国・EU競争法』(共著、商事法務、2011年)、「発行会社の立場からみた証券訴訟対応における実務上の留意点」(『ビジネス法務 Vol.9 No.3(2009年3月号)』)

【受賞歴】

2020年 Best Lawyers, 2021 (Antitrust / Competition)
2021年 The Legal 500 Asia-Pacific 2021: Risk management and Investigations Next Generation Partner

著者紹介

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   沼田 知之

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