(※画像はイメージです/PIXTA)

年収の多い医師は、離婚の際に多額の財産分与に関する問題を抱えることがある。溝上医師(仮名・65歳)も、妻の咲子(仮名)の不貞行為により離婚話が進み始めたものの、財産分与の件で争いが続いた。さらに、医療法人制度による思わぬ弊害も受けていた。弁護士の渡邊泰範氏が携わった医師の離婚問題から、医療法人制度の弊害について紹介してもらう。

病院を乗っ取ろうとする妻

社団医療法人の社員の地位は、離婚とは直接関係ありません。離婚したからといって、当然に退社させることはできないのです。

 

溝上医師の社団医療法人の定款によると、社員の地位を喪失するのは、除名、死亡、退社の場合に限られています。しかも、除名させるためには、社員たる義務を履行せず社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為があったとして、社員総会の議決を経る必要があったのです。

 

溝上医師と離婚したとしても、当然に上記定款の定める社員たる義務を履行せず社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為があったとはいえません。そのため、離婚後も元妻の咲子は、社団医療法人の社員のままでした。

 

もっとも、咲子が社員の地位を有していたとしても、溝上医師が社員総会で多数派を占めていれば、社団医療法人の運営上、直ちに困ることはなかったかも知れません。ところが、咲子は、溝上医師の2人の子供らを味方に取り込んだのです。先に述べたとおり、溝上医師は,社団医療法人の100パーセントの持分を有していましたが,社員の議決権は、持分には関係なく、1人1個です。そのため、社員総会では、少数派の溝上医師は、常に多数決で負けてしまうのです。

 

咲子らは、溝上医師の提案に全て反対するため、社団医療法人は何も決めることができなくなってしまいました。そればかりか、少数派の溝上医師に対し、理事長を辞任して病院を去るように迫ってきました。

 

溝上医師からすると、病院は先祖から受け継いだ大切なものであり、離婚した以上は咲子が社員を退社するのが筋と考えていました。ところが、残念なことに社員総会で多数派を占める咲子らから逆に追い出され、病院を乗っ取られようとしているのです。

 

溝上医師は、何としてでも病院を守らなければなりません。しかしながら、今や溝上医師は少数派なのです。溝上医師は、咲子に対し、社員を辞めて欲しいと頭を下げるしか方法がありませんでした。すると、咲子はまたもや法外な要求をしました。財産分与として、溝上医師の全財産を自分に分与するのであれば,社員を辞めても良いと言うのです。

全ての財産を差し出すことに…

確かに、過去の婚姻生活の清算的意味合いを有しているため、咲子のように有責配偶者であっても、財産分与を求めることができます。

 

通常は、婚姻生活中に夫婦で協力して築き上げた共有財産が財産分与の対象となります。一方、婚姻前から有していた財産や相続で得た財産などは、特有財産と呼ばれ、財産分与の対象とはなりません。また、財産分与の割合は、財産の形成や維持への寄与度によって決するとされていますが、原則的に2分の1ずつとされることが多いと言われています。

 

咲子は社員を辞めて欲しければ、共有財産のみならず、相続で得た溝上医師の固有財産をも含めた全ての財産を分与しろと要求しているのです。溝上医師からすると、先祖から受け継いだ大切な病院を乗っ取られるか、それとも全ての財産を咲子に差し出すか、という選択を迫られたのです。

 

離婚は元々、咲子の不貞行為に離婚原因があり、責められるべきは咲子のはずです。本来であれば、咲子は慰謝料を支払うべき立場にあるのです。それにもかかわらず、咲子に全ての財産を奪われることに、納得がいくはずもありません。

 

溝上医師は、咲子を社員に入れたことを後悔しましたが、時は既に遅すぎました。結局、溝上医師は先祖から受け継いだ大切な病院を守るため、咲子に対し、全ての財産を差し出すよりほかなかったのです。
 

 

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