※画像はイメージです/PIXTA

米国で30年以上研究者として活躍し、現在はスタンフォード大学医学部で教鞭をとる筆者が、仕事を極限まで効率化して最大の成果を得る、具体的なビジネススキルを公開! 今回は、事務的雑用の排除がもたらす効果を解説します。※本連載は、スタンフォード大学教授、医学博士の西野精治氏の著書『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

事務的雑用をなくせば、新たな創造が生まれる

経費精算やデータ作成など、昔は手でやっていた事務的雑用がコンピュータによって格段に楽になりましたが、ここで発想を転換し、人力だろうとコンピュータだろうと事務的雑用そのものを省略してしまうとさらに仕事のペースは早くなります。

 

その典型的な例として私が面白いと思うのは、経費精算です。たまに学会で招待講演を頼まれますが、アメリカはいい意味でどんぶり勘定です。

 

「2000ドルお支払いします。講演の謝礼も交通・宿泊費もすべてここに含まれていますから、お好きなように自分でマネージしてください」で終わり。お車代を渡される、ホテルを用意されるということもありません。「ホテルの部屋代は経費になるが、ミニバーの飲み物の精算はどうするか」という些末(さまつ)なやりとりは発生しませんし、こちらが請求書やら領収書やらを提出することはまったくありません。なにより、旅程を報告し、精算するという手間が省けて、支払う側も受け取る側も大幅な事務処理の軽減です。

 

先ほど紹介した研究費の審査員としてNIH(アメリカ国立衛生研究所)へ行く際も、精算はなし。飛行機は希望の便を言えばNIHが使っている旅行会社がエアーチケットを手配してくれますし、空港までの往復の交通費は100ドルまで、食事は20ドルまでとか決まっているので、レシートも何も渡す必要がありません。

 

どんぶり勘定といっても細かいところは細かいのです。以前、最終便で帰ろうと、「自宅への飛行機は深夜0時15分着の便」という希望を出したら、「1便早い11時50分に変えました」と連絡がありました。早い便のほうが数十ドル高かったので気を使ってくれているのかと思ったのですが、どうも日をまたぐと日当が生じてしまうので、25分早めたようです。実際は、家に着くのはどちらの便でも深夜1時前後で日をまたいでしまいます。審査員の日当は150ドル程度と格安ですが、徹底して経費を抑えているのでしょう。国のお金だから当然のことで、そうは言っても、「予約を変更して遅い飛行機に乗るのは構いませんのでご自由に」という具合なので合理的です。

 

日本の国立大学の先生は、アメリカに来るときはいまだに出張申請書を提出して、訪問先から招聘状の発行が必要なところがあります。企業であっても細かな経費精算をしているところは珍しくないと聞きます。私も日本までの旅費を招聘側の企業や大学に負担してもらう際は、「規定なのでパスポートの出入国スタンプのコピーを送ってください」「飛行機チケットの半券をください」と言われます。

 

「パスポートのコピーや飛行機チケットの半券を提出せよ」というのは空出張や二重出張による経費のごまかしを防止するためかもしれませんが、研究者やビジネスパーソンで、そんなインチキをする人がどれほどいるというのでしょう? 子どもの修学旅行でもないのに、なぜ「*時*分のサンフランシスコ発*便に乗り、空港からホテルまでのリムジンバスの値段が**円で~」と事細かに報告しなければならないのでしょう? 清算には領収書が必要で、今なら、Suicaで使用履歴が残りますが、東京の混み合った、JRやメトロで領収書をもらうのは至難の業です。

 

しかも、出張計画案、出張計画申請、出張報告と同じような書類の提出を3度求められることもあり、時に訪問先のホストとのメールのやり取りのコピーも添えるようにと、もうそこまで信用されないなら、自費で出張すると怒鳴りたくなります。それより、もっと困ったのは、毎回のパスポートのコピーが面倒で、一度パスポートを研究室のコピー機に置き忘れ、パスポートを紛失したと大騒ぎしたことがありました。

 

アメリカ式に謝礼を含めてまとめて振り込んでくれれば、その中でやりくりしますし、旅の手配は慣れたものなのに、自分では何もできない子どものような扱いには苦笑するばかりです。年より若く見てくださるのは嬉しいのですが、あまりにも若く見られるのは困ります。

 

百歩ならぬ千歩を譲って、私のような外部の人間に経費の使途提出を求めるのはいいとしても、自分たちの組織に属する教職員や社員にも申請書やら細かすぎる経費精算を強いるとは、「私はあなたを信用していません」というメッセージを送っているようなもの。これではいい仕事はできませんし、意味のない雑用で時間も食います。また、提出した書類や領収書をチェックする人、処理する人の人件費も考えたら、コストは思ったより高くつくはずです。

 

無駄な事務的雑用をなくす効果とは、時間の節約だけではありません。個人を尊重して自主性を重んじ、自由にさせれば、その余裕から新たなイノベーションが生まれてきます。「そういう規定だから」「決まりだから」というシステムは見直したほうがいいでしょう。それはポスト・コロナ時代にこそ相応しい。

 

 

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スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

西野 精治

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