※画像はイメージです/PIXTA

米国で30年以上研究者として活躍し、現在はスタンフォード大学医学部で教鞭をとる筆者が、仕事を極限まで効率化して最大の成果を得る、具体的なビジネススキルを公開! 今回は、アメリカの大学の研究室のシビアな「成果主義」ぶりを、日本の大学と対比させつつ解説します。※本連載は、スタンフォード大学教授、医学博士の西野精治氏の著書『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

米国の大学の研究費申請に求められる「膨大な情報」

アメリカの医学部の場合、大学から出る研究費はほぼゼロ。私たちの睡眠ラボもスタンフォードから研究費は一ドルたりとももらっていません。スタッフの給料ももちろん出ません。強いていえば、私(主任研究者)の給料の5%は大学持ちですが、その原資も主任研究者が獲得した研究費の「間接経費」(※オーバーヘッド。多くの場合は、国からの研究費か、企業からの委託研究費)でまかなわれています。

 

前述したとおり、医学の研究費は企業から得るか国から出るかの二択で、基本は国です。ワシントンの北西ベセスダにあるNIH(アメリカ国立衛生研究所)の審査を通過した研究テーマにだけ支給されます。他のソースとしては、寄付もありますが、寄付には、利害関係がなく、制約が一切つかないという書類に、寄付する側と受け取る側の双方で署名する必要があり、企業にはメリットが少ないので減少傾向にあります。

 

今では主体は、科学の進歩に関心のある個人からの寄付になります。こういった場合、親族などが患った疾患の解明の研究を経済的にサポートする、あるいは、特定の研究者を支援する場合等があります。特に後者の場合、寄付者はいわゆるパトロン的な役目を担うことになりますが、パトロンを得るためには、世の中に貢献するような立派な研究を行うことは当然ながら、パトロンを魅了する人間的魅力も必要で、四角四面の研究者では、研究成果を上げる以上に難しいでしょう。

 

私は、アワードされるか、されないかにかかわらず、限りなく研究費を申請しましたが、徹底した成果主義でありフィジビリティ重視です。たとえば睡眠ラボを率いる研究者であれば、「今後5年間は睡眠障害モデルを用いてレム睡眠と脳の発達についての研究を行う」と個別の研究テーマを決めてNIHに研究費の申請をするのですが、この申請書は非常に細かく具体的なものです。昔よりも簡略化されてきましたが、日本に比べると情報量は膨大で、結構なペーパーワークとなります。

 

年に3回あるNIHの審査をするのは、国から任命された研究者集団。私も審査員を務めましたが、これはとんでもない激務です。スタディセクションによりサイズは異なりますが、私のセクションでは、15人から20人ほどの審査員たちが、1回につき50件程度の研究申請を検討しました。一つの申請についてプライマリー、セカンダリー、サードと3人の審査員が査読し、それぞれに細密なレビューを書いて点数をつけるので、各審査員が査読する研究申請書類は毎回7~10件にもおよびます。

 

その研究テーマが優れているか、社会に必要か、新たな発見が期待できるかという本質的な検討だけでなく、フィジビリティを見ることも大切です。たとえばある申請書に、「レム睡眠の役割を調べるために、レム睡眠の異常が見られる睡眠障害のモデルマウスを用いて」と書いたのならば、そのプロポーザルを掲げる上で自分の研究室で得た根拠となる実験データを示すのはもちろんのことです。

 

さらに、この申請のように、新たな疾患モデルマウスを用いるのであれば、そのモデルを調達する手はずは整っているのか、外部で開発したものであれば、開発者から許可を得て、大学間でMTA(Material Transfer Agreement:物質移動合意書)も交わしているかが問われ、それら書類のコピーの添付が研究申請提出時に求められます。

 

当然、統計計算で割り出した実験に必要な動物の頭数、また動物は何時どのように搬入し、どのような交配計画でコロニーを維持し、実験の必要数を調達/確保するか、またその費用の概算など、研究申請の脊椎動物の使用書類に詳しく記入する必要があります。

 

また、最近は自然保護と倫理的な観点から実験動物の調達/使用は慎重に検討する必要があり、「レム睡眠の異常を示す睡眠障害モデルマウスが開発されたのでそれを使う」と言うだけでは通らないのです。そのモデルの妥当性、有用性を説き、さらには何故そのモデルを使うかの必要性を説明する必要があります。たとえば、同じ目的の実験が動物ではなく、コンピュータを使ってシミュレーションできないか等にも、真摯(しんし)に答えないと心証を悪くします。

 

いずれにしろ、「5年間でこのような結果を出す」というタイムラインでの具体的なゴールも設定されていなければなりません。また、実験期間中に起こりうる潜在的な問題点も列挙し、不幸にも問題が生じた際のバックアッププランも記載する必要があります。

 

 

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スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

西野 精治

文藝春秋

スタンフォード大学で学んだ著者が説く、仕事術! 著者がアメリカトップの大学の一つであるスタンフォードの門を叩いたのは1987年のこと。それから多くの蒙を啓かれること30年余、真の成果主義や個人主義について学びました…

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