(※写真はイメージです/PIXTA)

妻に先立たれた後、ある女性と20年以上、夫婦同然の生活をしていた丙野春夫さん。財産を、前妻との間の2人の子供へ相続、内縁の妻へ遺贈する遺言書を作成しましたが、そこには重大な漏れがありました。遺言書を作成する際の注意点を、行政書士の山田和美氏が解説します。※本連載は、書籍『「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

2人の娘たちはどう思うか?…遺言書に「重大な漏れ」

遺言書を作成する際は「実際に手続きをする場面」の想定が不可欠ですが、この遺言書には、その点から見て重大な漏れがあります。それは、「一体誰が、どのようにしてこの遺言書の内容を実現するのか」という点です。

 

まず、この遺言書が自筆証書遺言である以上、家庭裁判所での「検認」手続きを行なう必要があります

 

検認とは、遺言書の内容を保全するために行なう「遺言書の開封式」のようなもの。自筆証書遺言であれば、この検認を経なければ、その後の手続きには使えません。

 

検認の申立てを行なうのは、遺言書の保管者もしくは遺言書を発見した相続人です。

 

この遺言書を持っているのは内縁の妻ですから、彼女が自ら、もしくは専門家に依頼するなどして検認の手続きを行なわなければなりません。

 

自ら手続きを行なうことはもちろん、専門家を探すのも慣れていないと一苦労です。しかも彼女は家から出ることも難しい状態。仮にこの遺言書が公正証書遺言であれば、そもそも検認の手続きは必要ありませんでした。ここが1つ、残念なポイントです。

 

※ 2020年7月1日から法務局で自筆証書遺言の保管制度が始まりました。手数料は3,900円。法務局に保管した遺言書には、検認が不要となりました。

 

何とか無事に検認手続きが終わったとして、次に金融機関で手続きを行ないます。いくら遺言書があったとしても、春夫さんが口座を持っていた金融機関が自動的にお金を振り分けてくれるわけではありません。誰かが実際に手続きに出向く必要があります。

 

仮に内縁の妻が金融機関に出向き、手続きを行なおうとしても、ここでもう1つのハードルがあります。窓口でこのように言われてしまうでしょう。「この遺言でお金を払い戻すためには他の相続人全員の同意か、遺言執行者の選任が必要です」と。

 

他の相続人とは2人の娘たちです。父親の預金を一部でも渡すことを快くは思っていないでしょうから、手続きに協力してくれるとは思えません。

次ページ内縁の妻が財産を受け取れるまでの「長い道のり」

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