(※写真はイメージです/PIXTA)

大阪の中心地に佇む築60年超の建物。家主は取り壊したいと考えていますが、唯一の入居者が退去を拒みます。83歳、生涯独身の杉山二郎さんです。頼れる身内は、連帯保証人である兄のみ。目を患っており、3年ほど家賃を払っていません。しかし高齢のため、強制執行は高確率で不能になると予想されます…。そこで家主たちは形だけ催告をし、調書をもって役所等へかけ合うことで転居先を探す、という方法を取ることにしました。OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

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    「初めてやなあ」ゴミだらけの部屋から出てきたもの

    現場に残された役所の方が、部屋の中の貴重品を探し、追いかけて施設に向かう段取りでした。この間も、室内からゴミはどんどん運び出されていきます。

     

    「現金がありますよ」

     

    業者の人が敷かれていたカーペットの下から、隠された現金を見つけ出しました。几帳面に、一万円札が10枚ずつ束ねてあります。かなりの現金が敷かれていました。

     

    「こんなに現金が出てきたなんて、初めてやなあ」

     

    興奮気味の執行官は、集めた現金を数えだしました。120万円以上あります。押し入れのカバンの中からは、メガバンクの通帳も出てきました。驚くことに2000万円以上の残高になっています。年金も支給されているので、施設の費用は余裕をもって支払ってもらえそうです。

     

    強制執行を申し立てるとき、まさかこんなに室内に現金があるとは思わず、明け渡しの執行だけしか申し立てませんでした。動産の執行を申し立てるには、また別の予納金も家主は負担せねばならず、滞納している以上、そこまでの現金もしくは換金できるほどの財産がないと判断した結果でした。

     

    動産執行を申し立てていない以上、室内から出てきたお金は、二郎さんのもの。二郎さんにいったんお渡しして、その上で一連の費用を払ってもらうしかありません。少し残念な気持ちにもなりましたが、それでもこの先、二郎さんがお金に苦労することなく施設で過ごせると思うと、ホッとする気持ちの方が強かったのです。

     

    それでもこれだけのお金を持ちながら、なぜ二郎さんは家賃を払わなかったのでしょうか。少しずつ目が悪くなっていって、銀行に行くのが億劫になっていったのでしょうか。それとも「頼れるのはお金だけ」と、どんどん執着していったのでしょうか。

     

    たった4畳しかない部屋から、2トントラックがいっぱいになるほどのゴミが運び出されました。通帳等以外の貴重品はなく、大切な物は役所の方に渡されます。それ以外の物は、すべて廃棄処分。必要な服は、施設で新しく購入し直すことになりました。

     

    家主さんも、ホッとされていました。

     

    「二郎さんには、お前が生まれる前から、俺はここに住んでんだって言われてたんですよ。そう言われちゃうと、私も強く督促できなくなってね。古い建物にばかり気がとられていましたが、実際は高齢化された入居者の方が大変だったんですね。無事に施設に移ってもらうことができて、ほんと良かったです。こんなに大変だとは、思いもしていませんでした」

     

    家主になったばかりで、最初のトラブルがこの案件。かなりの衝撃的な出来事だったでしょう。実際にご依頼いただいてから、強制執行を中断したために1年近くかかっての解決でした。施設が見つからなければ、もっと時間もかかったでしょう。

     

    私たちも最悪は、二郎さんが入院するまで待つしかないのかな、そこまで考えたほどです。今この瞬間、安堵しかありません。

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    老後に住める家がない!

    老後に住める家がない!

    太田垣 章子

    ポプラ社

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