(※写真はイメージです/PIXTA)

大阪の中心地に佇む築60年超の建物。家主は取り壊したいと考えていますが、唯一の入居者が退去を拒みます。83歳、生涯独身の杉山二郎さんです。頼れる身内は、連帯保証人である兄のみ。目を患っており、3年ほど家賃を払っていません。しかし高齢のため、強制執行は高確率で不能になると予想されます…。そこで家主たちは形だけ催告をし、調書をもって役所等へかけ合うことで転居先を探す、という方法を取ることにしました。OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

あなたにオススメのセミナー

    強制執行当日。痩せた二郎さんは、ひょいと簡単に…

    季節は廻り、物件近くの大通りは、街路樹の銀杏が黄色く色づいてきました。気が付けば、催告の日から半年以上が過ぎていたのです。関係者に諦めの空気が流れだした頃、奇跡的に目の見えない人専門の施設が見つかりました。

     

    でも身元保証人が……。

     

    「いなくても、受け入れてくれるそうです」

     

    役所の担当者の人の声に、私たちも心が躍ります。すぐさま執行官に連絡をして、中断していた執行手続きを再開してもらうことになりました。

     

    本来であれば、身体検査を事前に受けなければなりません。今回は緊急性があるということで、それすら入所後落ち着いてから施設でするとのことでした。もう何も阻むものはありません。やっと二郎さんの終の棲家が見つかった、安堵感が関係者に広がります。

     

    断行の日、二郎さんの体調を考慮して救急車もスタンバイです。建物の外には執行官、荷物を運び出す業者の人たち、役所の関係者、施設の担当者、そして私たち、家主さん、皆が固唾を呑んで見守ります。

     

    引き戸は二郎さんを連れ出すために、最初に外そうということになりました。執行官が先頭に立って、廊下を歩きます。そのすぐ後ろに鍵屋さん、そして引き戸を外すためのドライバーを持った業者さんが続きます。建物中に緊張が走りました。

     

    「二郎さん、ドア開けるよ」

     

    執行官が声をかけたと同時に、鍵屋さんが鍵を開け、業者さんが一瞬で引き戸を外します。室内からゴミが廊下になだれ込んできました。

     

    「二郎さん、家賃払ってないからね、強制執行でこの部屋には住めなくなったからね」

     

    執行官の補助をする大柄な男性二人が、二郎さんを両脇から抱えます。

     

    「何すんねん。なんでドアがないんや」

     

    痩せた二郎さんは、ひょいと簡単に汚い部屋から連れ出されます。

     

    「家賃払ってないから仕方ないんやで。でもちゃんとした施設やから、安心してや」

     

    執行官が声をかけます。二郎さんは、抵抗するかのように最後まで足をバタバタさせていました。建物から出てきた二郎さんに、役所の方と施設の方が駆け寄ります。

     

    「今から一緒に行きましょうね」

     

    観念したのか少し落ち着きを取り戻した二郎さんは、施設の車に乗せられて先に出ます。もう一人での生活も、限界だったのでしょう。今までのことを考えると、嘘のようなおとなしさでした。

    次ページ「初めてやなあ」ゴミだらけの部屋から出てきたもの
    老後に住める家がない!

    老後に住める家がない!

    太田垣 章子

    ポプラ社

    今すぐ、「住活」を始めなさい!「住活」とは、自分のライフプランに合った「終の棲家」を得ることです。60代以降の自分の収入を確認して、最期まで払っていける家賃に合う住居を決めるのです。そのためには、さまざまな「断捨…

    人気記事ランキング

    • デイリー
    • 週間
    • 月間

    メルマガ会員登録者の
    ご案内

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    メルマガ登録