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相続税を現金で支払う代わりにモノで支払う「物納」は、厳しい条件をクリアしなければいけません。本記事では物納の要件と注意するべきことを解説していきます。

要件③ 物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること及び物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと

要件を簡単にいうと管理と売却がしやすい財産のみを物納できる財産と認めますということです。管理処分不適格財産とは管理と処分が難しい財産を指し、そのような財産を国が引き取っても換金ができません。

 

つまり管理処分不適格財産に認められればその財産は物納が難しくなります。

 

物納劣後財産とは売却が難しい財産を指し、売れない財産は物納ができませんと定義した要件です。管理処分不適格財産にあたる財産は様々ありますが、物納ではほとんどの方が不動産を納めるので、ここでは代表的なケースとして不動産が管理処分不適格財産にあたるかどうかの判断を以下に詳しく説明します。

 

■管理処分不適格財産になる不動産とは

以下の13項目に1つでも当てはまる不動産は物納の適用ができません。

 

1.担保権が設定されている

不動産に担保が付いていると売却の際に手間が生じるので物納できません。もし担保がある不動産を物納にしようと考えている場合には、あらかじめ担保を解除するか別な物件に差し替えてもらうなどして担保のない、きれいな状態にしましょう。

 

2.権利関係の争いがある

複数の人が1つの土地の権利を主張しているなど、誰が所有者か確定していない不動産は物納はできません。たとえば兄と弟が権利をめぐって争っている土地を弟が物納しても、のちに兄の財産になる可能性があります。所有者が変わることで物納されたはずの財産が突如なくなるのは国としてはリスクが大きいため物納対象外としています。

 

3.境界が不明確

隣地との境界が不明確な土地は物納対象外になります。境界が不明確とされないためには、あらかじめ隣地との境界確認や境界標の設置等をしましょう。また契約面積と登記面積や実測面積が異なっていると物納が難しくなるので書面上の面積と実際の面積を合わせてましょう。

 

4.争訟しなければ使用ができない不動産

隣地の所有者との間で境界の合意がとれていない物件は物納できません。たとえば、AさんとBさんの間にある道を、お互いが長年権利を主張しており権利は法廷でのみ決定するしかないといった場合です。

 

5.通行権が不明確

道路に面していない土地や建て替えが出来ない土地は市場価値がありませんので物納はできません。

 

6.借地契約の引継困難

契約上は借地人がいるにもかかわらず実際は借地人がいない土地は物納はできません。土地賃貸料の請求や契約の引継ぎが困難であるためです。よくある問題となるケースが当人同士の口約束で成立した契約書がない借地です。契約書は借地面積や借地期間、地代の確認など物納の申請の際にも必要な資料になるので契約更新の機会を通じて整えておきましょう。

 

7.他の物件と一体利用されている不動産

・宅地を利用するために必要な私道

・狭すぎて利用価値のない土地

・共有不動産の一部

など、ある不動産のうちの一部を1つの不動産として物納することはできません。

 

8.耐用年数が経過している

耐用年数が過ぎ、価値が減少した財産は物納できません。たとえば建物などの固定資産は時の経過とともに価値が減少しますので注意が必要です。

 

9.債務がある

敷金の返還が必要な不動産は物納できません。敷金を国が返さなければいけなくなるからです。もしこのような不動産を物納する場合は、預り金、敷金を前もって精算しておきましょう。

 

10.多大な管理費用がかかる

土止め対策や土壌汚染などの整備が必要な不動産は費用と手間の両面から大きな手間がかかるため物納の適用はできません。

 

11.公序良俗の侵害

風俗営業の目的となっている不動産を国が所有するわけにはいきませんので物納はできません。

 

12.引渡しに必要な行為がされていない不動産

・すでに建物は取り壊されているのに登記が変更されていない

・ゴミの除去がされていない

など、引渡しをする際に必要なことがされていない不動産は物納できません。

 

13.地上権、永小作権、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利が設定されている不動産で次に掲げる者がその権利を有しているもの

要件は長いですが、一言でいうと、賃貸など利益を目的にした不動産を暴力団関係者が所有していたら物納できない、という趣旨です。

要件④ 物納しようとする相続税の納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。

相続発生(被相続人の死亡日から10か月以内)に相続税の申告と物納の申請をする必要があります。もし期限内に申告と申請がされていなければ物納は使えないのでご注意ください。

 

【土地を物納するときには売却額に注意しましょう】

土地を物納に納める場合は土地の売却額によって得することもあれば、損することもあるので注意が必要です。たとえば相続税の評価額1,000万円の土地を物納するとします。もし売却の際、土地価額が2,000万円であれば損をします。2,000万円で売れる土地なのに評価額1,000万円の土地として物納するからです。

 

このような場合は土地を売却、現金化し相続税を納めたほうが得をします。

 

一方土地を売却すると売却額が500万円であれば物納で土地を納めた方が得をします。500万円で売れる土地を評価額1,000万円の土地として物納するからです。

物納の判定を一人で行うのは極めて難しい

あなたが物納できるかどうか要件を見てきましたが、正直にお話しますと物納判定を一般の方が自身でやることはほぼ不可能です。この理由は、物納をする財産は人によって異なるので「絶対にこうしたらいい」と言えず、また判断には専門知識がないとできないからです。

 

一例までに筆者が物納を適用するためにやっていることを簡単に紹介すると下記のステップを経て物納の適用を判定します。

 

(1)タウンページほどの厚さになる相続税の申告書を作り上げて物納適用の可能性を判断

(2)物納の有利判定を行う

(3)物納を申請

 

 

物納をするためには土台となる相続税の申告書を作りこまなければいけません。それがあって初めて適用ができるかどうか、物納を使うと有利になるかどうかの判断ができます。

 

もし判定を間違えると物納が適用できないことはおろか、多額の相続税を現金で支払わなければいけなくなります。支払期限が伸びれば延滞税もかかってくるため、さらに多くの税金を支払うことになります。

 

物納を確実にするためには相続に強い税理士に相談するのが一番労力と経済の面で負担がありません。

 

 

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    本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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