福岡ソフトバンクホークスは2020年7月、本拠地・PayPayドームのすぐ横に、エンターテインメントビル「BOSS E・ZO FUKUOKA」を開業しました。なぜ野球以外のことに巨額の投資をするのか? そう疑問に思ったファンも少なくないでしょう。狙いを理解するには球団=野球という図式を離れて、野球を「スタジアム・ビジネス」の一分野として捉えることが重要です。チームの強さとビジネスの強さは両輪。実はソフトバンクが行おうとしているのは、野球という「すごい『コンテンツ』に見合うビジネス」なのです。ソフトバンク代表取締役専務COO兼事業統括本部長の太田宏昭氏に取材してわかった「新しい経営戦略」の一部を、本稿で見ていきましょう。

1日中楽しめる場所へ…本拠地の「ラスベガス化」

博多から韓国・釜山までは高速船で3時間。日帰りも可能な、気軽に行ける海外だ。台湾へも空路で3時間。福岡ダイエー時代には台湾で公式戦も行ったことがある。

 

その「インバウンド」が、メーンターゲットになる。

 

「今は(コロナ禍で)苦しくなっちゃいましたけど、外国からのお客様が福岡へ来て、さて、どこへ行くんだろうねと。泊まる。福岡タワーへ行って、太宰府天満宮に行って、そんなの楽しいのかな、みたいに思いますけどね。その時間帯を『E・ZO』に振り向けてもらおうということもあるし、あとは夜の時間帯ですよ。泊まって夜のナイトショー。それをどうするかということですよ」

 

ソフトバンクが目指す「街づくり」のモデルの1つは、エンターテインメントの本場・ラスベガスだ。

 

「ラスベガスは、そういうのがすべて一体化されているじゃないですか?」

 

カジノ、ショー、スポーツイベント。まさしく不夜城だ。『E・ZO』で遊び、お腹を満たし、野球を見る。その後、『E・ZO』で舞台を楽しみ、ゲームをして、一杯飲んで、ホテルに戻る。

 

一日を完結できる。福岡を満喫できる。そこにソフトバンクのスローガンにある「世界一」というキーワードが貫かれてくる。言葉や国の”壁”を超えた、誰もが楽しめる共通のコンテンツ。その1つに「e-Sports」がある。

e-Sportsは、野球以上の人気コンテンツになる可能性

E・ZOの6~7階に「V-World AREA」がある。様々なバーチャルコンテンツ20種・38セットを楽しむことができる。

 

ソフトバンクでは、e-Sportsの4チームを持っているという。

 

うち2チームは、NPB(日本野球機構)とコナミが共催する「eBASEBALLプロリーグ」と、Nintendo Switchソフトを使ってNPBが主催する「eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」に参戦している(なおスプラトゥーン2020は開催中止)。

 

残る2チームは「こそっと、独自にやっているんです」と太田は笑いながら明かす。

 

Shadowverse(シャドウバース)とLeague of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)の2つのカテゴリーに参戦。米国では、これらの決勝戦ともなると、米NFLの頂上決戦・スーパーボウルと同じくらいの視聴者数が、オンライン上でも記録されるという。

 

「(「e-Sports」は)それくらい嗜好している人が多い競技、スポーツなんです。そこでもし世界一に近いところまで行ったときには『LOLのソフトバンクホークス』になって、あ、球団も持っていたの? と言われる時代が来るかもしれないんです。そういう可能性があって、今からその可能性に投資しているというだけです。

 

まだまだ、ビジネスにはならないと思いますよ。でも、いざというときに出遅れてしまうと、さらにお金がかかっちゃうかもしれない。この先、生活者の方々がどういう嗜好になって、どういうエンターテインメントを選んでくれるかは分からないですけど、できる限り僕らが提供するエンターテインメントを選んでいただきたいと思ってやっているのが根本ですね。仮説があって、それに対して投資するということです。

 

仮説ですから、もちろん勝算がなければやらないですけど、コロナ禍の前までの経済規模で言えば、勝算があると思っていました。もちろん、もう一回戻ってくるはずですし、戻ってくると信じていますので、そのときは行けるかな、と思っています」

次ページE・ZOは「世界一」を展開していくための拠点

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