飯田屋の閉店間際に飛び込んできたスーツ姿のサラリーマンが製菓用品コーナーで質問を連発してきました。「原産地は?」「材質は?」「ニッケルとクロムは?」…完全に嫌がらせだと思った6代目店主が知った真実とは。本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

お店の強みは?弱みしかなかった飯田屋の現状

ふと思い出したのは、高価なおろし金を1円も値切らず購入しながら「ありがとうな。また来るよ!」と、嬉しそうに帰っていったお客様の満面の笑みでした。我が子のために一度もつくった経験のないケーキをつくろうと、一生懸命に道具を探し回るお客様の横顔でした。

 

「これが欲しかった!」
「こんなのを探していた!」

 

飯田屋を訪れることで願いが叶い、お客様に笑顔になってもらいたい――僕はようやく自分がやりたい商売を見つけたのです。

 

「お客様と信頼関係を結べるような仕事がしたい」
「ありがとうとお客様に言っていただける道具屋になりたい」

 

飯田屋が生き残っていける道は、それ以外にありませんでした。

 

とはいえ、何から始めたらよいのかわかりません。

 

勝手に安売りをはじめ、大失敗を犯した前科があります。危機感は人一倍あるものの、やりたい思いと、それができる現実の間にはとてつもなく高い壁がそびえ立っています。それに、僕一人だけではなく、店全体の思いとして変わっていく必要がありました。

 

売上目標は達成されることもなければ、もはや誰も気にする雰囲気もありません。販売促進会議や営業会議でも活発な意見が出たためしはなく、思いつきの発言ばかりです。そんな空気が情けなくて、泣いたこともありました。でも、何も変わりません。

 

なんとしても変わらなければならないと、みんなで話しあう機会をつくりました。これからの販売戦略を考えるために、聞きかじった程度のマーケティング手法「SWOT分析」を試みたのです。

 

まず、飯田屋の強み(strength)は何かをみんなで探しました。

 

「発注ロットは1個からメーカーに注文できる」
「発注を出してから納品されるまでが短い」
「卸売として仕入れ値が安い」
「かっぱ橋道具街に店がある」
「大正元年から続く老舗だ」

 

そんな意見が上がったものの、先輩従業員がひと言。

 

「それ、かっぱ橋道具街のほかの店も同じだよね……」

 

たしかに、最低発注ロットも、納品スピードも、立地条件も同じです。仕入れ値は飯田屋より低い大型店はいくらでもあるし、明治のころから続く老舗企業もあります。

 

強みはまったく出てこないのに、弱み(weakness)はきりがありません。店が狭い、設備が古い、資金が少ない、従業員に活気がない……。出てくる意見は果てしなくネガティブです。

 

「飯田屋に飛び抜けた強みは、ない。むしろ弱みだらけか……」

 

みんなが落ち込みました。

 

しかし、強みにならないと思われていたものの中に、のちに飯田屋を変革させる最強の強みが眠っていたのです。しかし、このときは誰も気づきもしませんでした。

 

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

 

 

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