(※写真はイメージです/PIXTA)

横浜の一等地のマンションで、ある男性が孤独死した。男性の妹と弟が駆けつけ、相続手続きに着手するも、そこは数年前に逝去した男性の妻との共有で、妻側の相続手続きは未完了。作業は頓挫するが、生活に困窮する弟は、亡兄のマンションに住み着いてしまう。だが数年後、今度は弟がそこで孤独死してしまい――。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとに解説する。

 

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孤独死した兄は、亡き妻の相続登記を放置していた

いまから5年ほど前のこと。ある初老の男性から、相続に関しての相談を受けた。この方を大輔さんとしよう。内容としては以下の通りだ。

 

被相続人(亡くなった方)は、相談者の兄にあたる洋介さん。相談者である大輔さんは、この兄の洋介さんと姉の千恵さんの3人きょうだいだ。

 

洋介さんは横浜市内の自宅マンションで、死後3週間ほど経った状態で発見された。死因は不明だが、介護なども受けておらず自力で生活しており、冬場だったので腐敗が遅かったこともあるのか、発見が遅れてしまったのだろう。機密性の高い都市部の鉄筋コンクリート造のマンションでは、こうした事案は珍しくない。

 

兄・洋介さんは、この10年ほど前に妻の雪乃さんを亡くしている。夫婦のあいだに子どもはいなかった。勤め先の金融機関を定年退職後は、ずっと1人で暮らしていたようだ。

 

当然ながら洋介さん、千恵さん、大輔さんの両親はすでに他界している。つまり、洋介さんの相続人は、きょうだいである千恵さんと大輔さんの2名である。

 

大輔さんの話によると、兄・洋介さんの財産は、「自宅の築20年ほどのマンションだけ」とのことだった。横浜市内のターミナル駅近くの大規模なマンションであり、神奈川県では一等地といえる。一方で預金通帳を見ると、数十万の残金があるかどうかというところだ。

 

弊所のスタッフがマンションの登記簿謄本を取って調べてみると、下記のように登記をされていた。

 

平成@年@月@日売買

・夫 洋介 持分2分の1(※今回〈いまから5年前〉にマンション室内で死亡)
・妻 雪乃 持分2分の1(※平成15年頃、自宅で倒れ搬送先の病院で死亡)

 

このような登記記録を見ると、内心「参ったな」と思ってしまう。

 

目の前にいる大輔さんは、「兄の住んでたマンションだから、私らきょうだいでなんとかなる」と思いこんでいる。

 

だがこの場合、妻・雪乃の相続登記を放置している状況のため、事情が複雑なのだ。

 

遺産分割協議の効果は、死亡日に遡及する(『民法第909条 遺産の分割は、相続開始のときにさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。』)。

 

よって平成15年時点で妻・雪乃が死亡した時点での、遺産分割協議の対象者は、その時点で存命だった洋介さんと、雪乃さんのきょうだい(死亡している人がいればその子どもたち)全員との協議になる。

 

つまり、マンションの登記名義を変えるためには、この全員の同意が必要になる。

 

いつまで経ってもこの事実は変わらないし、放っておいても時間が解決してくれることはない。むしろ、事態は悪化するとこが多い。

 

唯一の可能性として、このケースの場合、妻・雪乃にきょうだいがいない場合(両親は他界している前提)は、遺産分割協議なしで、登記ができる可能性がある。

 

相談者の大輔さんによると、兄嫁の雪乃さんは死亡時の戸籍にも長女とあるし、生前もきょうだいの話など聞いたことがなかった、という。

 

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