(※画像はイメージです/PIXTA)

令和元年の遺留分に関する民法改正で、遺留分の請求権が金銭債権となりました。改正前は、遺留分の減殺請求があった場合、遺贈等の対象となった不動産や非上場株式等が共有状態となっていましたが、改正により、遺留分の請求が「財産(所有権)の返還」ではなく、「遺留分相当額の金銭」となったことで、複雑な権利関係の発生を回避し、より円滑に相続や事業承継を進められるようになったのです。今回は、遺留分の計算や注意点について、民法改正が相続税や譲渡所得税に与える影響に留意しながら、解説していきます。

「遺留分侵害額」の計算方法

遺留分侵害額は、「遺留分-遺贈又は特別受益にあたる贈与の額-相続により取得した遺産の額+承継した相続債務の額」で算出することが可能です。

 

・被相続人の相続財産は土地5,000万円、預貯金2,000万円、債務の額は400万円
・被相続人は亡くなる8年前、長男に特別受益にあたる預貯金の贈与300万円を行った
・被相続人は亡くなる5年前、次男に特別受益にあたる預貯金の贈与800万円を行った
・法定相続人は長男と次男2名である

 

上記の前提を踏まえ、土地5,000万円と預貯金1,000万円を長男に、預貯金1,000万円を次男に相続させるという遺言があり、債務の額は全額長男が負担した場合、次男の遺留分侵害額の計算はどのようになるでしょうか。

 

次男の遺留分侵害額=遺留分2,025万円-特別受益にあたる贈与の額800万円-相続により取得した遺産の額1,000万円+承継した相続債務の額0円=225万円

民法改正で「遺留分侵害額」は金銭での支払いが必須に

令和元年の民法改正では、「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」に変わりました。

 

先ほどの長男と次男の相続の場合、次男が改正前の「遺留分減殺請求権」を行使した場合には、次男は土地のうち減殺額相当の共有持分を取得することとなっていました。

 

一方、改正後は、次男は土地の共有持分を要求することはできず、長男は侵害額相当額を金銭で次男に支払うことになります(代物弁済契約等により土地の持分を次男に移転することもできますが、この場合は長男に譲渡所得税の課税が生ずる可能性があります)。

遺留分に関する民法改正が「相続税」へ与える影響

①小規模宅地等の対象となる土地を選択し直すことができなくなる

相続税の小規模宅地等の特例とは、被相続人等の居住用や事業用として使用されていた土地等を相続した場合に、一定の要件のもと、その土地の相続税評価額が減額される制度です。

 

民法改正前は、遺留分の減殺請求により相続財産である土地等の取得者に変更があった場合には、小規模宅地等の特例の対象となる土地等を、その取得に応じて選択し直すことができました。

 

しかし、令和元年の民法改正で、遺留分請求から生ずる権利が「金銭の支払い請求権」になったことにより、土地等の不動産は当然に共有状態となることがなくなりました。

 

これによって、金銭でなく土地等で、遺留分侵害額の弁済を受けた場合には、その弁済を受けた人は、相続によりその土地等を取得したことにはならず、相続税法の制度である「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができません。

 

また、代物弁済をした人についても、申告期限前に弁済をした場合には、小規模宅地等の特例における保有要件を満たさなくなり、特例の適用ができなくなります。

 

②事業承継税制へのリスク=非上場株の納税猶予打ち切り

事業承継税制とは、中小企業の後継者が非上場株式等を先代経営者から相続(又は贈与)により取得した際に、相続税(贈与税)の納税が猶予又は免除される制度です。

 

民法改正前では、遺留分減殺請求によって、納税猶予を受けていた非上場株式等である財産が減少することとなった場合には、その非上場株式等は、初めから納税猶予を受けている相続人の所有ではなかったと考え、納税猶予の打切事由である非上場株式等の譲渡にあたらないとされていました。

 

しかし改正後においては、遺留分侵害額請求に対し、金銭に代えて、納税猶予を受けている非上場株式等で代物弁済をする行為は、その株式等を、遺留分を請求した人に譲渡したと考えられ、納税猶予の打切事由に該当することとなりました。この場合は、相続税の納付が発生するとともに、譲渡所得税の課税についても算定が必要となります。

 

遺留分に関する問題は相続が発生した後に起こるものではありますが、その制度内容を知ることにより、相続対策の一つとして、事前に対処することができます。遺留分を考慮した遺言書を作成する、遺留分侵害額に相当する金銭を予め準備しておくなど検討をする必要があるかもしれません。


 

 

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