(※写真はイメージです/PIXTA)

古いアパートを取り壊すための立ち退き交渉には、残念ながらトラブルがつきものです。ここでは、家主、そして司法書士をも憔悴させた事例について、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

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    「出て行くもんですか」1時間半に渡る文句の果てに

    長年住み慣れたところから引っ越しするのは、とても苦痛なはずです。ただ冷静に考えたとき、この物件は張田さんが生を終えるまで持ち堪えることはできないでしょう。そう考えれば、どこかのタイミングでこの建物から転居せざるを得ません。残念ながら高齢になればなるだけ、部屋は借りにくくなってしまいます。そうなると立ち退き料をもらっての引っ越しは、悪いことばかりではありません。

     

    張田さんに会いに行ってきました。張田さんは、最初から攻撃的な口調でした。

     

    「ここを引っ越しするつもりなんてありませんよ。なぜ私たちが退去しなければならないのですか。あんな家主のために、出て行くもんですか」

     

    この建物の耐久性を説明し、一緒に部屋を探すことも提案しましたが聞く耳すら持ってもらえません。2年前の家主の言葉尻や対応に対して、延々と文句を言うだけです。

     

    その怒りは1時間半にも及び、最後には怒鳴り疲れたのか、それとも多少なりと悪いと思ったのか、

     

    「あなたが悪いわけじゃないけど、何度来てもらっても出ませんから」

     

    そう言い捨てて、ドアは閉められました。

     

    この賃貸借契約は、ご主人が亡くなったときに書き換えられ、嫁いだ娘さんが連帯保証人です。娘にとっても、年老いた親の家は無関係ではないでしょう。

     

    高齢の母親と定職に就かず引きこもりがちな息子という悪条件な中、突破口を見つけたくて娘さんに手紙を書くことにしました。娘さんに何とか部屋探しの協力をしてもらえるなら、ずいぶん張田さんも楽になるだろうな、そんな思いがあったからです。

     

    祈るような思いは届かず、手紙を送っても娘さんから連絡はありません。張田さんと娘さんとの関係が悪いのか、それとも別に何か理由があるのか、どちらにしても話もできなければ前には進みません。張田さん自身も「絶対に出ません」と公言している以上、このまま取り壊しを断念するか訴訟に踏み切るかしか選択肢は思いつきません。

     

    長年家賃を払ってくれている入居者相手に訴訟をすることは、心苦しいものです。それでも建物の老朽化の程度を考えると、そうも言っていられません。補強をしたとしても、地盤が悪いため、さして効果も期待できません。

     

    最終的に半年前に家主が出した「次の更新はしません」の書面をもとに、訴訟手続きをすることになりました。

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