医師が勝手に腫瘍を摘出…「シュレンドルフ事件」の何が問題か (※写真はイメージです/PIXTA)

インフォームド・コンセントという概念は、現在では当たり前になっています。しかし、少し前までは、そうではありませんでした。医師が、患者の承諾を得ずに勝手に治療したり、患部を切除するようなことも、少なくなかったのです。それでも、切除後の経過が良好であれば問題はありませんが、結果が思わしくない場合もあります。ここでは、インフォームド・コンセントの重要性が初めて示された、シュレンドルフ事件について解説することにします。

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シュレンドルフ事件とは

1908年1月、アメリカ人メアリー・シュレンドルフは、胃の治療のため、ニューヨーク病院に入院しました。彼女を診察した主治医は、子宮筋腫の疑いがあるとして、腫瘍の切除をすすめます。シュレンドルフは、腫瘍の切除を拒否しましたが、診断のために組織の一部を切除すると言われ、同意してしまいます。医師からこのように言われれば、患者が同意するのは当然でしょう。シュレンドルフは、組織の1部を切除することは同意しましたが、腫瘍を摘出しないように念押ししたにも関わらず、主治医は腫瘍を全摘出してしまいました。

 

しかも、シュレンドルフの術後の経過は思わしくなく、左手の先が虚血性壊疽になり、指を切断する羽目になってしまったのです。シュレンドルフは、患者の意思に反して勝手に手術した、主治医を雇用しているニューヨーク病院に対して、訴訟を起こします。この裁判は1914年に結審し、シュレンドルフが勝訴しました。裁判の担当判事は、患者が治療に関する説明を医師から受け、内容を理解した上で治療するかどうか、自分の意志で決めることの重要性を述べています。

 

インフォームド・コンセントには、以下の7つの項目があります。

 

(1)医師が患者に勧める治療の概要

(2)その治療に伴う利益や危険性

(3)その治療方法以外の選択肢と、それに伴う利益や危険性

(4)治療を行わない場合に想定される結果

(5)成功する確率と何をもって成功とみなすか

(6)回復した後にどんな問題が残り、正常な日常生活に戻るまでどのくらいかかるか

(7)その他、同じような状況下で通常、信頼に足る医師たちが提供している情報

 

これらに基づき、世界医師会は1964年のヘルシンキ宣言によって、人体実験が許容される条件を明文化しています。ヘルシンキ宣言は、その後改定を繰り返していますが、中でも一番重要なのが、インフォームド・コンセントの概念です。

 

しかし、インフォームド・コンセントが確立されれば、それで十分というわけではありません。なぜなら、患者の中には自分で理解したり、判断することができない人もいるからです。また、専門知識を持つ医師の権威に圧倒され、意味もわからないまま承諾してしまったり、医師の開示する情報を十分に、理解できない場合もあるでしょう。

日本のインフォームド・コンセントの歴史

1990年、日本医師会生命倫理懇談会は、インフォームド・コンセントを、「説明と同意」と訳しました。そして、インフォームド・コンセントが、患者の自己決定権を保証するものであると定義したのです。

 

その後、1997年に医療法が改正されるに伴い、「説明と同意」を行う義務が、正式に法律として定められました。

インフォームド・コンセントの効果

どうしてその治療が必要なのか、なぜその薬が処方されたのか、患者がしっかり理解していないと、途中で治療や薬の服用を、やめてしまうこともあるでしょう。そうなると、治療の効果が得られなくなります。

 

そこで、インフォームド・コンセントによって、医師とよく話し合えば、治療や薬の必要性も理解できるでしょう。つまり、インフォームド・コンセントによって、患者がさらに積極的に、治療に取り組むという効果も期待できます。

インフォームド・コンセントが難しいケース

状況によっては、インフォームド・コンセントが困難なケースもあります。たとえば、精神障害や認知症の患者の場合、本人の意思が確認しづらくなります。また、精神科の病気を患っていると、症状の度合いによっては、説明しても理解できないこともあるでしょう。さらに、重傷を負って救急搬送されたような場合は、説明している時間がないので、治療後に説明を行うことになります。

 

また、癌患者への告知も、家族のみにするか、本人に告知するかというのも微妙な問題です。症状の進行度合いや本人の性格、精神状態などによっては、本人には告知しないほうがよい場合もあるからです。このような場合には、インフォームド・コンセントが十分に生かせないこともあります。

患者側が注意すべき点もある

インフォームド・コンセントは、医師が患者に対して、治療や投薬の説明を行います。しかし、だからといってすべてを、医者まかせにしてはいけません。治療を受けるのは患者自身ですから、積極的にインフォームド・コンセントに、参加する必要があります。

 

また、自分の病気の症状や治療法、薬などについて、関心を持つことも大切です。医師から説明を受けても、何も知識がないと理解することができません。ネットなどを使って、できるだけ自分の病気や薬について、調べることも大切です。医師の説明に納得できない点があったり、不明な点があれば、納得いくまで説明を求めましょう。誰のためのインフォームド・コンセントなのかを考えれば、患者側がなすべきことも、おのずと見えてくるはずです。
 

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1955年宮崎県生まれ。明治学院大学文学部英文学科卒業。システムエンジニア歴25年。フリーライター歴15年。初期の頃は雑誌など紙媒体を中心に、現在はWeb記事を中心に執筆。執筆記事数は7000本を超える。
サブカルチャー、ムック本などのほか、時事ニュースやコラム記事の執筆もある。歴史が好きで、幕末史に独自の見解を持つ。大正時代、昭和初期の歴史にも興味があり、誰も書かなかった近代史を書きたいとの構想がある。
著書:
鹿児島あるある(TOブックス)
勝手に現代風にアレンジしたことわざ辞典(三交社)

著者紹介

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