違法な人体実験が40年間も続いた…恐怖の「タスキギー事件」 (※写真はイメージです/PIXTA)

医学の進歩のためには、ある程度の犠牲はつきものでしょう。特に新薬の開発には、人体を使った治験も必要になります。しかし、その前に新薬の研究を重ねて、十分な安全性が確認された上で、治験が行われます。そしてもちろん、治験を行うには本人の同意が必要です。しかし、過去にアメリカで、本人の同意を得ないで人体実験を行うという、あり得ないことが40年にもわたって続けられました。その事件の経緯を追ってみましょう。

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梅毒とは

まず最初に、タスキギー事件で人体実験された、梅毒について解説しましょう。梅毒は、スピロヘータという病原体によって、引き起こされる性感染症です。梅毒には先天性と後天性があり、先天性の梅毒は梅毒に感染した母体から、胎盤を通してスピロヘータが胎児に感染して起こります。これに対して後天性の梅毒は、性交やキスなどによって、スピロヘータが粘膜から、侵入することによって起こります。スピロヘータは、体内に侵入すると急激に増殖しはじめ、感染して10日~60日程度の潜伏期間を経て、外陰部に症状が現れます。

 

この間に、スピロヘータは体内で増殖を繰り返し、皮膚に発疹ができたり、皮膚に損傷が起こったりします。さらに症状が進むと終末期を迎えますが、場合によっては潜伏して、慢性梅毒になるケースもあります。慢性梅毒は、数カ月から数年間続くのが通常ですが、まれに30年にわたって続くこともあります。終末期になると、体の各部の骨が侵されたり、心臓循環系が不調に陥って、死亡することも珍しくありません。また、梅毒が脳に回ると、進行性麻痺や脊髄瘻、難聴、失明などを起こして、最終的に死亡するケースがほとんどです。

タスキギー事件の概要

この人体実験は、タスキギー事件と呼ばれていますが、タスキギーというのは、アメリカのアラバマ州にある町の名前です。ここには、アフリカ系のアメリカ人が多数住んでいました。タスキギーで行われたのは、梅毒に関する人体実験でした。

 

梅毒は性行為によって、スピロヘータという細菌が、感染するために起こる病気です。現在では、治療法が確立されているため、梅毒の発症頻度は少なく、重症化することもほとんどありません。

 

しかし、タスキギー事件が起きた当時は、発症率が高く重症化しやすい恐ろしい病気でした。梅毒は10年以上にわたって進行し、最終的に脳まで感染して、死に至ることもあります。1932年から始まったタスキギー事件は、被験者に梅毒のことは何も告げず、治療も行われない状況で、罹患後の経過が観察されました。

 

つまり、梅毒にかかると、どのように症状が変化するのか、確認するための実験だったのです。タスキギーに住む黒人の多くは貧困層で、実験に参加すれば食事や生活必需品がもらえるため、続々と希望者が詰めかけました。当時は、世界的な大恐慌があったせいもあって、貧困にあえぐ人が多かったのです。

 

そんな状況ですから、実験に参加すると食事がつく上に、持病があれば、無料で治療してもらえるという条件は、かなり魅力的に映ったことでしょう。まさに、「うまい話には裏がある」というのはこのことです。1947年になると、梅毒に有効なペニシリンが開発されましたが、タスキギー事件の被験者には投与されませんでした。

事件が発覚した経緯

1972年、内部告発によって、タスキギー事件が発覚します。実験は中止となり、集団訴訟が起こされ、1000万ドルの和解金が支払われることになりました。しかし、当初399人いたとされる梅毒患者のうち、生き残っていたのはわずか74人だけでした。なぜこんなに生存者が少ないのかというと、梅毒にかかっていた399人は、実験が開始された当初、すでに梅毒の末期状態だったからです。政府はこの人体実験で、梅毒の末期に起こる症状や、合併症などを調査したかったのでしょう。

 

しかし、タスキギー事件は、計画書すらない杜撰な人体実験でした。そのため、実験が進んでいくたびに、後付けで計画書が作られていったのです。被験者には定期的に血液検査を行い、死亡すれば死体を解剖して、実験結果として資料に追加されていきました。タスキギー事件は、まだインフォームド・コンセントが確立していなかった時代の、悲劇的な出来事と言っていいでしょう。これほど大規模な国家的犯罪にもかかわらず、その後20年以上にわたって、大統領から被害者やその家族に対して、謝罪は一切ありませんでした。

大統領の謝罪

アメリカの大統領の中で、タスキギー事件について正式に謝罪したのは、ビル・クリントン大統領でした。1997年5月16日、クリントン大統領はホワイトハウスで、かつてタスキギー事件という非人道的な、梅毒実験が行われたことを述べ、被害者とその家族に政府として謝罪しました。クリントン大統領は、タスキギー事件は政府による人種差別であると認めています。クリントン大統領は、タスキギー事件の直接の関係者ではありませんが、国の代表として被害者や家族に謝罪したのです。

 

大統領が謝罪したことにより、タスキギー事件は1つの節目を迎えました。今でもアメリカでは、人種差別によって痛ましい事件が次々と起こっています。これでは、大統領が謝罪しても、根本は何も変わっていないのかもしれません。しかし、タスキギー事件が発覚したことにより、インフォームド・コンセントの重要性が認識されたのは、間違いない事実です。
 

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1955年宮崎県生まれ。明治学院大学文学部英文学科卒業。システムエンジニア歴25年。フリーライター歴15年。初期の頃は雑誌など紙媒体を中心に、現在はWeb記事を中心に執筆。執筆記事数は7000本を超える。
サブカルチャー、ムック本などのほか、時事ニュースやコラム記事の執筆もある。歴史が好きで、幕末史に独自の見解を持つ。大正時代、昭和初期の歴史にも興味があり、誰も書かなかった近代史を書きたいとの構想がある。
著書:
鹿児島あるある(TOブックス)
勝手に現代風にアレンジしたことわざ辞典(三交社)

著者紹介

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