トヨタ「五輪CMを中止」の表向きの理由と「したたかな戦略」 (※写真はイメージです/PIXTA)

今回の東京オリンピックで、トヨタ自動車が「日本国内におけるオリンピック用TVCMを中止する」という衝撃の発表をしました。五輪スポンサー企業として10年間で2000億円も投資してきたトヨタが、特に宣伝効果が高いとされるTVCMの中止を決めたのは、一体なぜなのでしょうか。中小企業の経営支援を幅広く行う筆者が、最近のマーケティングや広告戦略の変化を踏まえて考察します。

五輪用TVCMからの撤退は「急な方針変更」ではない

現代の日本社会において、私たち消費者は成熟したモノやサービスに満ち足りた市場にいるため、絶対的に誰でも欲しいと思うモノ・サービスを開発・販売できる機会が減っています。いわゆる、マス・マーケティングの衰退です。

 

さらに、情報通信技術の進化により、発注から生産までのデータ管理が可能となり、多品種少量生産体制が実現し、ロジスティクスも1個単位での配送が当たり前となり、個人の属性に応じた製品を手にする機会が飛躍的に増加しました。

 

今後ますますこの流れは加速し、これからは消費者が個人の属性に応じたモノ・サービスを求める時代が加速し、顧客ごとにカスタマイズされたニッチ・マーケティングの重要性が高まってきています。

 

ニッチ・マーケティングは一般的に特定の市場を狙って事業を展開し、収益を上げることですが、今回は広告戦略に関連付けて、「メディア戦略」の観点で話を進めていきます。

 

大衆をターゲットにしたTVCMは一般に「ペイドメディア」の一つに分類され、一度に幅広い消費者やユーザーに情報を届けられるメリットがある反面、個々人への訴求力が低く、埋もれてしまったり、費用の割に効果が低くなるデメリットがあります。

 

昨今、ニッチマーケティングの重要性が高まっている中、今まで大衆をターゲットにしていた自動車業界においてもメディア戦略の見直しを検討している企業は多く、トヨタ自動車も例外ではありません。

 

実際にトヨタでは、TVCMであるペイドメディアの割合を減らし、今後、オウンドメディア、アーンドメディアの充実を図っているように見えます。オリンピック用CMを中止したのも、ほかのメディアへの割合を高める動きの一環と捉えると、実はトヨタにとって今回の対応は、大きな決断でも方針転換でもなく、過去からの一貫したメディア戦略に沿った妥当な判断だったとも捉えられます。

 

[図表4]各メディア(トリプルメディア)のメリット・デメリット

「TVCM以外の手段」でしっかり宣伝・ブランディング

では、今回のオリンピック用TVCMを含めたトヨタ自動車のメディア戦略について見ていきましょう。トヨタ自動車はオリンピック用TVCMを中止しましたが、スポンサーとして3300台の自動車を提供しています。東京オリンピック2020の選手村の移動を自動運転電気自動車シャトル「e-Palette」が活躍しており、オリンピック選手や競技関係者がその様子をTwitterでツイートするなどし、話題になっています(※1・2)

 

たとえば、トランポリンの日本代表である森ひかる選手は、Twitterで「選手村はすごく大きいので、このようなバスが走っていて、バス停で待っていれば乗せてくれます。中には椅子もあって座れます。快適でした」(※1)とe-Paletteについて投稿しました。

 

また、カヤックシングルのオーストリア代表であるビクトリア・ウォルフハルト選手がTikTokに投稿した動画で、夜の選手村の中を走行するe-Paletteを紹介しており、海外選手がSNSに投稿し、海外にe-Paletteの話題が拡散しています。

 

※1 https://twitter.com/i/status/1419572155570790407

※2 自動運転ラボ『トヨタe-Palette、自動運転で五輪選手村の「足」に!SNSで世界に拡散』(https://jidounten-lab.com/u_toyota-e-palette-olympic-sns)

 

これはアーンドメディアを用いたメディア戦略が成功した事例です。費用をかけずにトヨタの次世代技術を、インフルエンサーである選手達から発信してもらうことで、トヨタの次世代技術を全世界へ伝達しています。

 

ここでのアーンドメディアのメリットは3つあり、1つ目は、費用対効果が優れている点。トヨタ側の広告宣伝費は車両費用除くと0円です。

 

2点目に信頼です。発信元が企業の利害関係者ではない(森選手もビクトリア・ウォルフハルト選手もトヨタ所属ではない)ため純粋に商品・技術の情報をシェアしたい目的で投稿しているので、客観的な意見・感想であり、信頼性を得やすいのです。特に、その選手のファンには効果が高いのも特徴です。

 

最後にコミュニケーションを直接取りやすい点です。コメントに対する意見や、ユーザー同士がコメントし合えるため、商品の機能に関する信憑性が高まります。トヨタとしては、TVCMをやめたとしても、広告宣伝を一切やめたわけではなく、キッチリとアーンドメディアで露出を増やし、広告宣伝を行っていたのです。

 

次にオウンドメディアの活用についても見てみましょう。2019年から配信しているトヨタオリジナルのオウンドメディア『トヨタイムズ』について考察すると、狙いは2つあり、①ブランド変化の認知・拡大、②コアなファンの育成だと考えられます。

 

トヨタが自動車メーカーからモビリティーカンパニーへと変革する中、より幅広く社内外に変革するトヨタと、そこにかける豊田社長の思いを発信する最適なメディアとして誕生したのがトヨタイムズです。そのため、他自動車メーカーと違い、トヨタイムズでは新車や機能紹介はせずに、株主総会、トヨタの春交渉や販売店への取り組み、Woven Cityの紹介、対談コンテンツなどで深くトヨタを知ってもらい、ブランド確立とコアなファンの育成に貢献しています。

 

つまり、今回オリンピック用TVCMを辞めたとしても、アーンドメディアで広告効果を補完し、オウンドメディアでブランディング効果を補完できているとの判断ではないでしょうか?

MASTコンサルティング株式会社 パートナー 中小企業診断士

1981年生まれ、兵庫県西宮市出身。広島大学工学部卒業後、大手製薬会社で医療用医薬品の営業職として全国の病院・診療所を担当。17年間営業職で培った経験から、企業の売上アップ、営業力強化、マーケティング、DXなどを得意としている。

中小企業診断士の他に心理カウンセラー、FP技能士としてのスキルを活かし、企業の「今あるチカラの最大化」を念頭に中小企業支援を心掛けている。

著者紹介

認定経営革新等支援機関 

中小企業診断士を中心に税理士、弁護士、社会保険労務士など、100名以上の国家資格保持者が所属するコンサルティングのプロフェッショナル集団。

所属メンバーは、財務・税務・人事・法務・マーケティング、また製造業・卸売業・建設業・サービス業・ITなど、職種や業界ごとの得意分野を持ち合わせる。

中小企業の経営に必要な知識と経験を活かし、冷静な判断、熱き心を持って、中小企業経営者をワンストップでサポート。

MASTコンサルティング株式会社:https://www.mast-c.com/

著者紹介

連載打倒大手! 中小企業の「経営戦略術」を実例解説

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