(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍は、日本の徹底した職場至上主義の文化さえも有無を言わさず再検討させる破壊力を持っている。契約書の電子化、ズーム会議、果てはオンライン飲み会まで当たり前になってしまった。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

職場至上主義の文化さえても再考させる破壊力

■伝統的な日本のハンコ文化すら粉砕された

 

2017年、私は、ある日系多国籍企業のニューヨークオフィスで戦略プロジェクトに関わっていた。同社と何度か打ち合わせをしているうちに、日本国外ではあるものの、日本企業のカルチャーにじかに触れることができた。

 

日本人従業員が持つ労働倫理やひたむきな姿勢、会社への忠誠心は、もはや伝説的と言っていい。現に日本には「過労死」という言葉さえあり、働きすぎて命を落とすのである。こうした気風の中核を成しているのは、職場を神聖視する考え方である。

 

このクライアント企業と仕事をしていて一番驚かされたのは、最先端技術が行き渡った先進的な企業文化でありながら、中央集権型で対面を重んじる社風に大きく依存している面もあった点だ。

 

メールや電話会議、スカイプなどを使って日常の話し合いを持ち、中間目標やプロジェクトの最終目標に向かって業務を進めていく機会はいくらでもあったのだが、それでもじきじきに集まって会議が開催されていた(しかも何度も、である)。ある日の会議では、私が行う予定のプレゼンテーションを東京本社の社員にもライブでストリーミング配信するにはどうすればいいのか検討するために、1時間近く費やしたのである。

 

翌年、東京に出向いた私は、目の前で繰り広げられる猛烈な日本流の労働倫理を、とことん思い知らされることになる。

 

日本の労働文化に詳しい一橋大学の小野浩教授は次のように説明する。

 

「ここ(日本)には、物事を進める方法は1つしかありません。仕事とは会社で所定の時間に行うものであり、教育は学校で行うものであり、診察は病院で行うものなのです」

 

にもかかわらず、コロナ禍は、これほどの徹底した職場至上主義の文化さえも有無を言わさず再考させる破壊力を持っていた。契約書の電子化、ズーム会議、果ては仕事終わりのオンライン飲み会まで当たり前になってしまった。日本のビジネスになくてはならなかったハンコ文化でさえも揺らいでいる。

 

ハンコについては、初めて日本を訪れる前に予習した際、奇妙だが興味をそそる文化の一端だと思っていた。日本で在宅勤務が広まらない大きな理由の1つに、ハンコの存在を挙げる経営幹部もいるほどだ。書類に目を通して決裁にハンコを押す必要があるため、オフィスに出向く必要があるというのだ。

 

ところが、この「日出ずる国」をコロナ禍が席巻して以来、昔からの伝統の多くが徹底した見直しの対象となり、ハンコも例外ではなかった。その結果、オフィス至上主義も含め、何事も不変ではないことが証明されたのである。

 

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