※画像はイメージです/PIXTA

アメリカに資産を保有する方が亡くなった場合、「プロベート」という、煩瑣かつ相当な費用と時間が求められる手続を経て、資産の所有権移転を行う必要があります。しかし、不動産は「TODD」、預貯金は「POD」といった制度を活用することで、手続きを簡便にすることが可能です。具体的な方法と利用時の注意点を、国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

TODDが使えない州でプロベートを回避する方法

では、TODDが使えない州ではプロベート手続を受け入れざるを得ないのでしょうか? そうではありません。TODD以外にも、不動産についてプロベート手続きを回避できる法的手段があります。

 

 ①リビングトラスト(生前信託) 

 

まず1つ目は、リビングトラスト(生前信託)です。リビングトラストは、不動産所有者が亡くなったときに、予め信託合意書(Trust agreement)で指定した後継受託者(Successor Trustee、サクセッサートラスティ)が、当該信託合意書で定められた内容に従って、負債の清算、諸費用の支払等をして、残った遺産を分割する手続をいいます。

 

つまり、リビングトラストの設定により不動産所有権は受託者に移転し、元の所有者が死亡したときには不動産は本人名義ではなくなっています。

 

そのため、プロベートの適用はないということになります。そして、信託合意書で定められた受益者のために遺産が分配されますので、プロベート回避策として有効となるのです。

 

ただし、このサクセッサートラスティの業務は、通常、遺産が所在する現地州で行われることが想定されています。アメリカ不動産を投資目的で購入していた場合、現地州に知り合いがいないパターンが多いので、サクセッサートラスティとして現地のトラスティ業者を選定することになります。

 

このトラスティ業者に支払う報酬ですが、私のこれまでの経験上、そこまで安くはないという印象です。場合によっては、遺産額に比して高額な費用負担になってしまう可能性があるのが気になる点です。

 

またそもそも、日本人には、リビングトラストは制度としてあまりなじみがないため、理解に時間がかかることが挙げられます。

 

最近になって、日本でも「民事信託」「家族信託」といった制度の認知が広がりを見せていますが、アメリカのリビングトラストの制度理解が進んでいるとはいえないため、せっかくトラストの組成にある程度の弁護士費用をかけても、相続人である日本人に説明しても理解されるのに時間がかかり、場合によっては揉めごとになってしまうリスクがあります。

 

 ②合有名義(Joint tenancy) 

 

2つ目は、2人で不動産を購入し、同一の権利を所有し合う「合有名義(Joint tenancy)」にする方法です。

 

「合有」というのはアメリカ特有の所有形態ですが、合有にすることで、一方が亡くなったときに、プロベートを経ずにもう一方に完全な所有権が移転することになります。これは生存者権(Right of survivorship)といいます。

 

ただし、不動産の購入時点で、双方が購入資金を負担する必要があります。例えば、夫婦でハワイのコンドミニアムを購入して合有名義にした場合、夫が購入資金の100%を拠出していたときは、日本の相続法では、妻への死因贈与があったと認定され、相続税の課税対象として加算されます。合有する際は、この税務リスクをぜひ押さえておいてください。

 

また、合有名義は、不動産を購入する最初のタイミングで設定する必要があります。購入後に半分の権利を譲ることで合有名義にするということは認められませんので、その点もご注意ください。

 

以上のとおり、現行のアメリカ法制度からすると、リビングトラストや合有名義と比較して、TODDが最も経済的かつ合理的で、柔軟性があり法的安定性も高く、お勧めであるといえます。

 

ちなみに、「遺言(Will)を書いたからプロベートを免れることができた!」と勘違いしないようにして下さい。プロベートは、遺言があってもなくても発生する手続です。遺言はあくまで遺産の分割方法などを示したものであり、プロベートを回避する効果はありません。遺言とTODDとはまったく別物であることをぜひご認識ください。

預金の名義変更を容易にする「POD」制度

これまではアメリカの資産として不動産を想定していましたが、不動産を持つと預金口座も開設することになります。そのアメリカの預金口座についても、不動産のTODDと同様にプロベートを回避できる「POD(Payable on death、死亡時受取人指定)」という制度がありますので、ご紹介いたします。

 

例えば、バンクオブアメリカの場合、アメリカ国内に所在する支店を訪問して「PODの手続きをしたい」と伝えます。

 

本人確認、口座確認が済むと、担当者がフォームを出してきます。PODのフォームはそれこそ紙1枚程度のシンプルなもので、TODDと同じように、「受取人(Beneficiary)」を記入して提出します。費用は無料です。これだけで、口座名義人が亡くなったときにプロベートを回避し、口座名義人を変更させることができます。

 

支店を訪問しなければいけないという手間はありますが、銀行によっては、PODのフォームを取り寄せて郵送対応してくれるところもありますので、ぜひご自身の銀行で用意されているPOD手続きを確認してみてください。

 

アメリカに資産を保有している方は、煩雑なプロベートを適法に回避することで、ご遺族が安心・迅速にアメリカ資産の相続ができるようにしておきましょう。

 

 

※こちらの原稿内容は執筆時点のものです。税務に関する法改正、制度変更等の最新情報は、アメリカの税務に詳しい税理士・会計士にご相談ください。

 

 

中村 優紀

中村法律事務所 代表弁護士

ニューヨーク州弁護士

 

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