(※画像はイメージです/PIXTA)

「戦国時代をいつまでも終わらない」…織田信長だけは気づいていたという。最終的に、信長はこの問題をきわめて鮮やかに解いてしまいます。その答えとは…。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

戦国時代がいつまでも終わらない理由

■文明的価値から文化的価値へ

 

高原社会における活動の二つ目「文化的価値の創出」について考察していきましょう。ビジネスそのものをアートプロジェクトとして捉える、ということは、ビジネスの価値創出の方向性を「文明的豊かさ」から「文化的豊かさ」へと大きく転換することを意味します。

 

すでに地球の文明化は終了の段階に差し掛かっており、需要・空間・人口という三つの物理的有限性による制約から「成長の限界」を迎えつつあります。この有限性を突破して無限の経済成長を志向しようとすれば、それは容易に「モノをじゃんじゃん消費して捨てさせる」という奢侈・蕩尽を礼賛するという価値観に接続されてしまうわけですが、すでに確認したように、このような価値観はもはやサステナブルではありません。

 

有限性と折り合いをつけながら、新しい価値を社会に創出することができるのか? という問いを立てたとき、一つの回答として「文化的創造によってそれは可能だ」というアイデアが浮上してきます。

 

ゾンバルトが「贅沢には二つの種類がある」と指摘したことはすでに触れました。あらためて確認すれば、その「二つの種類」とは「壮麗な聖堂を黄金で飾って神に捧げる」のと「自分のためにシルクのシャツをオーダーする」という行為でしたが、ここで私がいう「文化的価値の創造」とは、言うまでもなくゾンバルトが「大聖堂の建設」のたとえで示した側の贅沢……それは決して消費され尽くされることのない、永続的で他者に開かれた豊かさを生み出す活動を指しています。

 

さて、このような価値創出の転換の成功事例として、あらためて参照したいのが我が国の武将、織田信長です。織田信長はおそらく、日本の戦国時代がいつまでも終わらない本質的な理由について気づいた、歴史上最初の人物です。

 

戦国時代において、武将の格を決めるもっとも重要な指標は「石高」ですが、これは要するに「保有している耕作地の大きさ」のことを指します。なぜ、耕作地の広さが問題になるかというと、当時の経済規模は耕作地の面積にほぼ比例したからです。信長はこの点を治世上の問題として考えました。

 

どういうことでしょうか。日本は島国で国土を容易に拡大することができない上、その国土の九割は山岳や丘陵地帯で耕作に適した平地は一割程度しかありません。つまり「耕作地の広さ」をめぐって争うと必ず「誰かが得をすれば必ず誰かが損をする」というゼロサムゲームにならざるを得ないのです。これが、信長だけが気づいた「戦国時代がいつまでも終わらない本質的な理由」でした。

 

信長は、自分が仮に天下を統一することになったとしても、この問題から逃れることはできないということに気づいていました。自分の部下である武将が勲功をあげたとして、彼に領地を与えようとすれば、それは必ず、他の武将もしくは自分の領地が減ることを意味したからです。このような状況では安定的な統治など望むべくもありません。

 

最終的に、信長はこの問題をきわめて鮮やかに解いてしまいます。

 

いったいどうやって? 「茶道によって」です。

 

信長は自身が茶道を嗜み、茶器などの茶道具を山や城と交換することで、巨大な価値空間を創出することに成功したのです。一種の貨幣を生み出したといっても良いでしょう。

 

信長が率先して名品を求めるのを見た武将は、我も我もと同じような名品を求めることになり、茶器の値段は天文学的な水準にまで跳ね上がり、最終的には茶碗一つが領地や城と取引されるほどの価値をもつまでに至ります。

 

かくして、信長はその狙い通り、土地のゼロサムゲームという有限性に制限されることなく、まるで錬金術のように価値を生み出すことを可能にしたのです。

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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