(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、「オルタナティブ投資」の分類について見ていきます。

「エンゲージメントファンド」は代替資産?

「エンゲージメントファンド」も、ファンドの性質上、代替資産と代替戦略の両方に含まれる可能性がある。

 

エンゲージメントファンドは、短期や特定の利益を図ることを主目的にするのではなく、中長期的な企業価値の向上などに資するため、友好的アクティビズム(株主提案や株主総会時の議決権行使)や外部支援などによって企業のバリューアップ戦略をサポートし、中長期的な投資リターンを高める戦略を主目的とする、ESGの流れを汲んだファンドだ。

 

具体的には、建設的な対話を行い、企業価値創造に向けた経営戦略や資本・財務・非財務戦略の提言や示唆を行うことに加え、それらの実行支援に関して必要なら外部の専門機関などを紹介することによって価値拡大を促す手法をとる。このようなエンゲージメントファンドは、ESGをベースとした長期のロングオンリー戦略がメインとなっている。

 

通常、「アクティビスト」はヘッジファンド戦略の「イベントドリブン」に位置づけられることが多いが、ここでのアクティビストは時に敵対的で、短期的な利益獲得を目指す「物言う株主」の側面が強い。

 

そのため、長期のESGスタイルを重視し、友好的なアクティビストとして中長期の企業価値の向上を促す役割を担うロングオンリーのエンゲージメントファンドは、概ねプライベートエクイティファンドと同様にオルタナティブ資産の区分として捉えられる可能性があろう。

 

一方、イベントドリブンタイプに近いファンドに加え、それ以外のヘッジファンド戦略に性格が近いエンゲージメントファンドもある。たとえば、ヘッジファンドのなかには積極的な議決権行使や株主提案に加え、経営者などとのface to faceによる建設的な対話をした上で、中長期的に企業価値の向上が期待できる銘柄の長期のロングと同時に、ガバナンスに問題がある企業や建設的な対話でも変化が期待しにくい企業を長期の視点でショートするファンドもある。

 

また、下方リスク抑制型のポートフォリオ戦略を構築するにあたり、行動ファイナンスの低ボラティリティ戦略を踏まえた最小分散ポートフォリオや低ボラティリティファクター戦略に基づくユニバースを設定した上で、積極的なエンゲージメントを通じて(増配や自社株買いに加え、適正なレバレッジ比率を促すことで持続可能なROEやバリュー、クオリティファクターなどの向上を通じて)ローリスク/ミドル~ハイリターンを目指す「ESGエンゲージメントの長期ロング戦略+アノマリー戦略(ダウンサイドリスクを抑えながら上昇局面での追随率をより高めるESGハイブリッド戦略)」型のヘッジファンドもある。

 

加えて、上記の「最小分散ポートフォリオまたは低ボラティリティファクターポートフォリオ」と「エンゲージメント」を組み合わせた上で、「企業行動・変革のタイムラグ(企業が認識しても実際に行動に移し、また組織の変革が示現するには時間がかかる)」や「遅延浸透効果(非財務項目への投資はタイムラグを伴って企業価値を高める可能性がある(PBRとの正の相関))」を考慮し、株価上昇として表れるまでの期間(上昇相場への追随力が弱くパフォーマンスが劣後する可能性がある期間)のマーケット追随力を高めるため、財務や非財務の視点とは異なるCTA戦略をポートフォリオの一部に組み込むヘッジファンドもある。

 

さらに、高PER・イノベーション・ハイテク関連株などβの高い銘柄に対し、エンゲージメント&ガバナンスリスクの程度やその改善を踏まえたロング・ショート戦略(ロングが多いポジション)をポートフォリオの一部に組み込み、相場への追随力を高める手法をとるヘッジファンドもあると聞く。

 

オルタナティブ戦略(代替戦略)の代表例は、このように多様な戦略を駆使する「ヘッジファンド」と言えようが、ショートターミズム(短期志向)への批判から一段と拡大した経緯もある長期主体のESG投資とは水と油の関係と捉えられることも多く、広義においてもESG投資を代替戦略とみなすことに抵抗がある長期投資家は多い(特に年金基金など)。

 

とはいえ、ヘッジファンド側にもESGを考慮した投資プロセスやESGを活用した戦略を取り入れようとする世界的な流れがあることも忘れてはなるまい。

 

そのようななか、投資手法の観点から伝統的ファイナンス理論をベースとした財務・業績価値に基づく「ファンダメンタルズ分析」に対し、非財務・非業績価値に基づく「ESG投資」や効率的市場仮説を否定する「行動ファイナンス戦略」に加え、モメンタム、トレンドなどのアノマリーをベースに行動ファイナンス理論やクオンツとの結びつきが強まり、CTAなどのヘッジファンド戦略にも活用されることの多い「テクニカル戦略」などを総称して代替戦略と捉える向きもある(この場合、ESG投資をファンダメンタルズ以外の投資手法として捉え、クオンツの視点ではファクターの一つとして活用しようとする立場になるだろう)。

 

■まとめ

今後もオルタナティブ資産(リートやインフラファンド等)やオルタナティブ戦略(ヘッジファンド)とESGの融合に加え、投資手法の分散化や統合が進展し、様々なスタイルのファンドが生み出されるにつれ、「伝統的な投資(資産・戦略)とオルタナティブ投資(資産・戦略)」および「オルタナティブ資産とオルタナティブ戦略」の境界が徐々に薄れていくことが考えられる。

 

中村 貴司

東海東京調査センター

投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

 

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このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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