(※画像はイメージです/PIXTA)

生き方に正解がないように、逝き方にも正解はありません。ただ、最期のときだからこそ、「その人らしさ」が現れると年間100人以上を看取る在宅医は語ります。呼吸困難な肺がん末期の50代男性は最期までタバコを手放さなかったというが…。本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

乳がん再発で在宅医療を選んだ女性の終活

■「お迎えって、なかなか来ないものね( 笑)」余命を延ばして終活中

 

「お迎えって、そんなに簡単に来ないのかしら?」

 

3年前に乳がんの診断を受けたC江さんは、半年前に再発して治療を続けていましたが、これ以上の治療はむずかしいと医師に言われ、在宅医療を選択されました。

 

病院でがん終末期の方が亡くなる過程について説明を受けていたC江さんは、「もう治療がないので、あとは亡くなるだけ」というイメージをお持ちだったようです。そのため、私がお宅にお邪魔した際も、「急にお迎えが来ちゃうんだと思って、急いで準備したのよ。でもまだ来ないわね」なんてお話しされていました。

 

パッチワークのお教室を自宅で主宰していたC江さんは、もともとちゃきちゃきした性格もあるのか、家族の食事の準備をしたり、お菓子を作ったりと、できることはサクサクやってしまう方です。病状を知らない人が見たら、まさか終末期の患者さんだとは思わないでしょう。

 

動けなくなった自分をご主人が介護するのはきっと無理だからと、ひとりでトイレに行けなくなったら入院すると決めていて、緩和ケア病棟のある病院への登録も済ませ、着々と死への準備を進めています。

 

実際のところ、病院の医師からは「あと1か月くらいかもしれない」という厳しい病状を伝えられていたのですが、私がお伺いするようになってから、すでに3か月以上が経ちました。

 

「やりたいことは、ぜんぶやってきたからね。もう思い残すことはないの」とおっしゃるC江さんには、死への不安もさほどないように見えます。

 

お子さんたちとも自立した関係なので、互いに干渉しすぎることなく、バランスのいい距離感を保っている印象です。ご主人もC江さんの体調をよく理解していて、「なかなかお迎え来ないわね」と言っているC江さんの隣で、いつも苦笑しています。

 

C江さんのように、医師から告げられた余命より延びることも、少なくありません。今KuKuRu(当院併設の緩和ケア施設)に入居されている方でも、余命2か月と言われてから、もう1年が経とうとしている方もいます。

 

「いろいろ片づけをやっておかなきゃと思って一気にすませちゃったけれど、まだ時間がありそうね」

 

C江さんはまだご自宅で緩和ケアを受けながら、今もお元気に過ごしています。自分がいなくなったあと、ご主人が一人で生きていけるようにと、お料理やお洗濯など日常生活の術をご主人に伝授する日々です。

 

こんなふうに前向きな終活ができる人になりたいものだと、C江さんにお会いするたびに思います。

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「在宅死」という選択~納得できる最期のために

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

中村 明澄

大和書房

コロナ禍を経て、人と人とのつながり方や死生観について、あらためて考えを巡らせている方も多いでしょう。 実際、病院では面会がほとんどできないため、自宅療養を希望する人が増えているという。 本書は、在宅医が終末期の…

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