(※画像はイメージです/PIXTA)

生き方に正解がないように、逝き方にも正解はありません。ただ、最期のときだからこそ、「その人らしさ」が現れると年間100人以上を看取る在宅医は語ります。呼吸困難な肺がん末期の50代男性は最期までタバコを手放さなかったというが…。本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

最期までブレずに自分の生き方を貫く

スタッフには、D太さんの自宅に伺うときは「玄関を開けたら、もう亡くなっているかもしれない、と覚悟しておくように」と伝えていました。

 

その翌日、実際にそうなりました。

 

訪問看護師が訪ねると、落ちたタバコをベッドから拾おうとしたのか、手を伸ばした体勢のまま、D太さんは亡くなっていました。それでも猫の餌はベッドの上に置かれていて、最期まで大好きなきなこちゃんの世話をしていたことが見て取れました。 性格はいろいろと大変な方ではありましたが、最期までブレずに自分の生き方を貫いた、とても印象深い患者さんでした。

 

さて、亡くなられた2日後のこと。D太さんが大事にしてきたきなこちゃんは身内の方が引き取れないとのこと。役所に聞くと「殺処分しかないですね」という回答でした。それでいてもたってもいられなくなり、きなこちゃんの里親探しがはじまりました。

 

猫の里親探しにまで奔走したのははじめてのケースでしたが、無事に里親になってくれる人がみつかって、今でもD太さんのきなこちゃんは別の名前をもらって元気に暮らしています。

 

まわりになんと思われようと、自分の生き方を貫いたD太さんの逝き様は「あっぱれ」だったと思います。介護スタッフは、D太さんにさんざん文句を言われて苦労が多かったはずですが、それでも懸命にサポートして、できるだけ「その人らしい」最期を迎えてほしいと頑張ってくれました。

 

在宅医療の現場は、医師だけの力ではどうにもなりません。看護師、ヘルパー、ケアマネジャー、薬剤師など、たくさんの人がかかわって成り立っています。だからこそ、おひとりさまでも、自宅で「あっぱれ」な死を迎えることができるのです。
 

 

中村 明澄
在宅医療専門医
家庭医療専門医
緩和医療認定医

 

 

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

中村 明澄

大和書房

コロナ禍を経て、人と人とのつながり方や死生観について、あらためて考えを巡らせている方も多いでしょう。 実際、病院では面会がほとんどできないため、自宅療養を希望する人が増えているという。 本書は、在宅医が終末期の…

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