呼吸困難でもタバコ…肺がん末期50代男性おひとりさまの壮絶最期 (※画像はイメージです/PIXTA)

生き方に正解がないように、逝き方にも正解はありません。ただ、最期のときだからこそ、「その人らしさ」が現れると年間100人以上を看取る在宅医は語ります。呼吸困難な肺がん末期の50代男性は最期までタバコを手放さなかったというが…。本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

肺がん末期の男性はネコとタバコが大事

■「猫がいるから入院は絶対しない」おひとりさま男性の最期

 

さて、今度は生活保護を受けながらひとり暮らしをしていた肺がん終末期の50代のD太さんのお話。何より大事なのが猫とタバコという人でした。

 

もともとは、認知症の父と一緒に暮らしていましたが、わけあって別居することになったD太さん。なかなか一筋縄ではいかない方で、「亡くなるまで連絡しないでほしい」と親戚にも言われてしまうほどでした。

 

D太さんご自身は、自分の病状はあまり気にしていない様子でした。肺がんがかなり進行していて、つねに呼吸がゼイゼイしているのですが、それでもタバコは手放しません。かなりギリギリになるまで自宅に在宅酸素を入れずに過ごしました。この在宅酸素というのは、肺の機能が落ちて呼吸が苦しい方には導入することがありますが、酸素は引火すると爆発するので、タバコは厳禁です。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

本来なら、D太さんも在宅酸素を入れることで呼吸が楽になるはずですが、タバコ優先なので、頑として拒みつづけていました。

 

私が訪問診療に行きはじめた段階で、すでに自分のことを自分でするのがむずかしい状況でしたから、入院を相談したこともありました。でも、とにかく猫が心配で仕方がなくて「猫を置いてはどこにも行かない」と最期まで自宅での療養を望んでいました。ちなみに猫の名はきなこちゃん。

 

私を含む在宅ケアのスタッフに対しては、正直、悪態ばかりついていたD太さんでしたが、きなこちゃんにはメロメロで、彼にとってはかけがえのない存在だったのです。

 

具合がかなり悪くなり、いつ亡くなってもおかしくない状態になってきたとき、どこまでご本人の意向に沿えるのかを、ご本人とともに、スタッフ全員で話し合うことにしました。彼が一人きりになる時間が心配ではありましたが、最終的に、「本人の選択だから、私たちにできることを最大限やって、彼の思いを最期まで支えよう」と合意し、入院はせずに最期まで自宅で療養することに決まりました。

 

D太さんは、自力ではもうまったく動けない状態になっていましたし、肺がんの終末期ですから、呼吸も苦しかったはずです。最終的には、在宅酸素も導入していましたが、そんななかでも杖で酸素の電源を切っては、タバコを吸っていたようです。

 

私が最後に訪問したときには、「おなかが空いたなあ」と言って、冷凍庫にあったご飯を温めて納豆を混ぜて食べていました。ゲホゲホッとなりながらも「美味しい」とうれしそうでした。

在宅医療専門医
家庭医療専門医
緩和医療認定医

2000年東京女子医科大学卒業。国立病院機構東京医療センター総合内科、筑波大学附属病院総合診療科を経て、2012年8月より千葉市の在宅医療を担う向日葵ホームクリニックを継承。2017年11月より千葉県八千代市に移転し「向日葵クリニック」として新規開業。訪問看護ステーション「向日葵ナースステーション」、緩和ケアの専門施設「メディカルホームKuKuRu」を併設。緩和ケア・終末期医療に力をいれ、年間100人以上の患者の方の看取りに携わっている。病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演をしているNPO法人キャトル・リーフも理事長として運営。著書に『「在宅死」という選択 納得できる最期のために』(大和書房)がある。

著者紹介

連載「在宅死」という選択で自分らしい生き方と逝き方を探る

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

中村 明澄

大和書房

コロナ禍を経て、人と人とのつながり方や死生観について、あらためて考えを巡らせている方も多いでしょう。 実際、病院では面会がほとんどできないため、自宅療養を希望する人が増えているという。 本書は、在宅医が終末期の…

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