「見かけないけど、引っ越したの?」退去手続きしないまま入居者はどこかへ…(※写真はイメージです/PIXTA)

古いアパートを建て直したい家主。住民の立ち退きと、行方不明者への強制執行に際した切実な想いに迫る。 ※本記事はOAG司法書士法人代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

手続きと並行し、現入居者の立ち退き交渉がスタート

井上さんの手続きと並行して、この建物に残った村山さんと有村啓介さん(74歳)の立ち退き交渉が始まりました。お二人とも以前住んでいたアパートが建て替えになって、一緒にこのアパートに引っ越してきました。それからまだ6年しか経っていません。

 

「またか……。そうだよね、建物も古くなっているからね。ただまた物件探しが大変だ」

 

建物が古いので、ある程度は覚悟されている様子でした。ただ前回のときも高齢・単身者・身寄りがないという条件から部屋探しが難航したため、気持ちは重くのしかかります。考え込む表情から、途方に暮れている様子がうかがえました。

 

「もうずっとこの町に住んでいるから、今更別のところになんて行けない。俺らも探すけど、家主さんの方でも貸してくれるとこ探してよ」

 

村山さんがそう言うと、横で聞いていた有村さんも力強く頷いていました。

 

古い建物には、必ず高齢者が住んでいます。若い人たちは、やれWi-Fiだ、宅配ボックスだ、オートロックだとハイスペックを求めるので、転居していきます。建て替えのときには、おのずと高齢者が立ち退き交渉の相手方になる確率が高くなります。

 

しかも、高齢者はなかなか部屋を貸してもらえないため、またしても古くて安い物件、空室で困っている物件に入居することになります。ところがやれやれとやっと入居できても、建物の寿命の方が先にきてしまい、結果としてまた転居を余儀なくされるということにも繋がるのです。

 

長期で住みたいという高齢者の思いは、物件側の事情と相まってなかなか成就しません。村山さんも有村さんも、高齢ながらまだビルの夜間の警備や畳職人としてお仕事をされていました。今のアパートに転居されてからはもちろんですが、以前のお住まいのときも、滞納なんて一度もありません。

 

家主側からすると、その点ではとても安心できる賃借人であることは間違いありません。ただお二人とも独身で、親しくしている親族もいないということでした。万が一のことがあったときに……この問題が、重くのしかかります。

 

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老後に住める家がない!

老後に住める家がない!

太田垣 章子

ポプラ社

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