(※写真はイメージです/PIXTA)

要介護になった父の面倒を看ると看護師の妻が申し出てくれたため、自宅と実家を売却し、両親と同居した長男一家。しかし、父が旅立つと、弟と妹は不満を爆発させ、母親まで妹の味方に。孤立無援となった長男の立場は…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

自らの正当性を明らかにすべく、調停を申し立てたが…

埒があかないと思った山本さんは、家庭裁判所の調停に申し立てました。調停では、父親の介護をしてきた自分たち夫婦の正当性を明らかにし、弟と妹にはっきりわからせようと考えました。

 

しかし、第1回目の調停は、調停員の「いくら払えるの?」という言葉から始まりました。介護状態の父親に尽くしてきた山本さん夫婦の気持ちを汲み取ったり、弟や妹をいさめたりする雰囲気は一切ありません。また、調停員が具体的な提案をしてくれるわけでもありません。山本さんは、これは自分が望んでいたものではないと痛感しました。

 

第1回の調停だけでも、山本さんには多大なストレスで、精神的な限界を感じることになりました。山本さんが筆者のもとに相談に見えたのは、このタイミングでした。筆者からは、まず調停を取り下げ、もう一度山本さん自身の手で、親族間の話し合いをまとめてみてはどうかとアドバイスしました。

 

そうこうしているうち、母親は山本さんや妻をかばうことなく、いつの間にか妹側についてしまいました。そして、妹の勧めに従って高齢者住宅に入ることを決め、自分の財産をまとめて家を出てしまったのです。

 

母親のふるまいから、山本さんはあまりにも自分のペースでものごとを進め過ぎてしまったことに気がついたのでした。

 

そこで、山本さんは自分が申し立てた調停を取り下げ、もう一度、弟・妹と向き合う努力をしました。自分は家の名義だけでいいとし、預貯金は妹と弟に、さらに母親の財産管理や老後の面倒も弟と妹に託し、山本さんは母親の財産は一切要求しないということで、事態をなんとか収束させました。

 

このような話し合いにおいては、双方が譲歩しないとまとまりません。山本さんの一方的な提案ばかりでなく、弟と妹の意見にも耳を傾けたことで、着地が見出せたといえます。

 

もしここで解決ができなかった場合は、不本意かもしれませんが、弁護士の手を借りることになったと思われます。そのときはおそらく、山本さんが話し合いをあきらめ、弁護士に依頼して遺産分割協議の調停を申し立て、弟や妹も立腹して弁護士を依頼し、弁護士同士の話し合いになったでしょう。調停が終わって遺産分割が決まったとしても、最終的に山本さんと弟・妹は絶縁してしまう可能性が高かったといえます。

 

解決のポイントは、やはり「調停の取り下げ」と「家族での話し合い」だったといえます。万一調停を進めてしまったら、修復不能なほど感情がこじれ、双方が攻撃を繰り返すことになったのではないでしょうか。その結果、相当なストレスを受けることになったに違いありません。

 

母親が家を出てしまったことは想定外であり、悔いが残る結果となりましたが、それでも山本さんは、自分の言葉できょうだいの顔を見ながら手続きを終えられ、本当によかったとおっしゃっていました。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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    本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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