(※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

人と人の信頼から始まるコミュニティアート

「家プロジェクト」は、コミュニティアートという視点だけでできているわけではありませんが、「地域」は重要なファクターでしたし、グローバル化が進んだ現代アートにあって、ローカリティを見直し、生活の場をアートの舞台にした画期的なプロジェクトでした。

 

「スタンダード」展、「スタンダード2」展と地域再生型のアート展を行い、家プロジェクトを七軒完成させて、私は直島を離れましたが、2010年にはそれをさらに拡大した第1回「瀬戸内国際芸術祭」が福武總一郎プロデューサー、北川フラムアートディレクターという体制で実施されました。

 

このときには、直島だけでなく、豊島、犬島などの近隣の島にまでエリアを広げて「アートによるまちづくり」を主眼にして行われています。その後、第2回、第3回と継続する中で、瀬戸内芸術圏という広域的なアートエリアを形成するところまで拡大していきます。

 

地方都市や過疎の町を舞台にしたアートプロジェクトで町おこしが、日本の各地で行われているという。(※写真はイメージです/PIXTA)
地方都市や過疎の町を舞台にしたアートプロジェクトで町おこしが、日本の各地で行われているという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

直島のプロジェクトや瀬戸内国際芸術祭は、アート作品というものだけが芸術的価値をつくり出すのではなく、場所や人々、アーティストや関係者を含めた様々な有形無形のものが関わって生み出されるのだということを教えてくれました。欧米と異なり、日本のコミュニティアートはまちづくりと一体化し、一般の人々の暮らしの場に近い場所でアートが実現するという点が特徴でしょう。

 

人々が関わる生きた生活の場は、同意や反発もある、小さいながらも、きわめて人間的な政治の場でもあります。そこに現代アートが関わることの意味はあるだろうと思います。なぜならばアートの割り切れなさ、人間臭さこそが、生きた生活の空間に近いものだからです。

 

欧米型の批評性の強いアートとは異なり、日本的な、あるいはアジア的な、といってもいいですが、集団性を拠りどころにした人と人の信頼から始まるコミュニティアートが、日本の参加型アートの特徴なのです。越後妻有にしても瀬戸内にしても20年を超えて、改めて振り返りの時代に入りつつあります。

 

ただ、現代アートに参加することを是とする時期はずいぶん前に終わりましたが、アートを足場にしてどのような創造的な未来につながるコミュニティをつくり出していくか、あるいは持続可能な地域社会を形成していくかという、アートを超えた街づくりのビジョンとの関係も考えていく必要があるでしょう。

 

そのときにアートは、アートの批評性や遊び心を忘れて、ただ街を効率的に建設する機能優先になってはいけないでしょうし、常に人間的な豊かさを創造しながら進めていかなければならないでしょう。

 

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