相続税申告書の「不動産価格」に納得できない場合は…
遺留分の争いでよく問題となるのは、不動産の評価です。前記のとおり、不動産の評価が上がれば遺産の額が上がることとなり、遺留分の請求額が増えるからです。しかも、以下述べるように、世間で言われている不動産の評価額には4種類あり、どの評価額を採用するかにより、遺留分の額が変わってくるからです。
不動産の評価には、一般的には、4種類あると言われています。
①固定資産税評価額
②路線価
③公示地価
④時価
①固定資産税評価額
固定資産税を計算するための評価額です。地域によって異なりますが、一般的には、時価の7割と言われています。
②路線価
相続税、贈与税などを計算するための評価額です。地域によって異なりますが、一般的には、時価の8割と言われています。
③公示地価
取引の目安となるよう国が発表している土地の評価額です。時価に近いですが、固定資産税や路線価とは異なり、全ての土地について公示地価は発表されていません。
④時 価
売ったらいくらになるかという市場価格です。
遺留分の請求の際に、どの土地の評価額を使用するかは、当事者が合意すれば、固定資産税評価額でも、路線価でもよいこととなりますが、当事者が合意できない場合は、時価によることとなります。時価を簡易な方法で出すには、複数の不動産業者にいくらなら売れるかという簡易査定をしてもらい、それに基づき相手と話し合うという方法があります。複数の不動産業者の査定額で決まらない場合は、裁判所で不動産鑑定士による鑑定を受けることとなります。
さて、本問では、Xさんは、相続税の申告書の評価額に基づいて遺留分を計算して支払うと主張しています。相続税の申告書の評価額は、路線価で、時価よりも低い金額である可能性が高いです。
また、相続税の申告書での評価額は、小規模宅地の特例など相続税法用の軽減措置に基づいて減額されている可能性もあります。
そこで、Y子さんは、相続税の申告書の評価額で納得できないということであれば、時価で評価して、遺留分を請求することができます。
したがって、正解は②となります。
時価で遺留分を請求すれば相続税の申告書の評価額よりも高くなり、遺留分も増額される可能性はあります。
ただ、不動産業者の査定は、不動産鑑定とは異なる可能性があることから、思ったほど高くはならないケースがあるので注意が必要となります。
高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士
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