家族の安心を理由に、施設入所を考えないで
●安易に施設入所を考えないこと
1人暮らしの親を呼び寄せて、同居しようと考える人は、要介護状態でなければ容易に同居できると思っているようです。しかし、1人暮らしの高齢の親が脳梗塞や大腿骨骨折などで長期間入院し、いざ退院となると、呼び寄せても親の介護はできず、同居は難しいから介護施設の入所しかないと思い込んでいます。脳梗塞の後遺症で半身まひが残ったり、自力歩行が困難となれば、病院の次は介護施設しかないと考えてしまいます。
筆者はそうしたご相談を受けることがあります。相談者に必ずお聞きするのは、「ご本人の希望をお聞きなりましたか?」ということです。
その答えは、「本人の希望を聞くまでもなく、施設に入ってもらった方が安心だから」というのが圧倒的に多く、他の選択肢は考えていません。また、タイミングよく入院先の病院でも医療ソーシャルワーカーから、「退院して家に戻るのは難しいので、施設を探した方がよいです」と言われることがよくあります。
さらに、施設の善し悪しもわからない患者家族は、その病院の系列の施設を勧められます。善意の勧めとはいえ、本人の意思もほとんど確認せずに、すべてを患者家族と病院側が決めてしまうのです。
介護施設に入所した要介護高齢者が、「老いては子に従えというから、子どもたちの考えに従って施設に入りました。でも……」と言って、筆者は、色々とお話を聞いたことが何度かありました。
ところで、介護保険法では、要介護高齢者に介護保険サービス(介護施設を含む)の選択権と自己決定権を保障していることをご存知でしょうか。同法は、要介護高齢者は弱者であり、その権利を厳格に守ることを謳っています。本人の希望や意思の確認は、彼らの尊厳を守るためにも重要なのです。
●家族に介護する人がいないときは?
突然、要介護高齢者を抱えた家族が、24時間365日介護できないのは当たり前です。そのために介護保険制度ができたのですから、利用方法を考えるためには知識や情報が必要になります。
介護保険サービスには、訪問介護やデイサービス(通所介護)といった、自宅で暮らしながら利用できる居宅サービスがあります。一時入所できる施設や医療的なケアが必要な人のための訪問看護などもあります。その他、施設系サービスとして、病院を退院してもすぐに家に戻れない人のための在宅復帰に向けたリハビリテーションを行う介護老人保健施設など、必要なサービスを組み合わせて利用することができます。
そうした在宅サービス(居宅サービス)を効果的に利用して、家族の介護負担を最小限にすることは可能です。しかし、いつかは介護施設の入所を検討しなければならない時期が来るでしょう。
●本人の生きる意欲を優先する
末期がんの人は余命を宣告された時に、失意のどん底に落とされます。その後、残された時間を有意義に過ごそうと考えて、やり残しがないようにやりたいことをします。そうした本人の希望が叶うように、家族や医療機関は最大限のサポートをします。
では、「施設入所しか選択肢がない」と言われてしまった要介護高齢者は、どんな気持ちになるのでしょうか。格子のない牢屋に入るような気分だったという人もいました。
施設入所しか選択肢がないと言う前に、本人の生活に対する希望や考えを十分に聞くことが最優先されるべきではないかと思います。実現するのが困難だとしても、希望や考えを聞くことにより、本人の生きる意欲を引き出すことにつながります。
福岡 浩
介護業務運営・業務改善コンサルタント
元介護サービス情報の公表制度主任調査員
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