(※写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナの危機を評価するときに難しいのは、脅威とその規模をどう見極めるかだという。今回のパンデミックを量的に捉えることが難しいのは、その危険性を判断するとき2つの異なる尺度が存在する。1つは健康上の脅威、2つは経済的脅威だという。今回のパンデミックをどう評価すればいいのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

世界経済は破壊されなかったスペインかぜの教訓

■歴史が示す、パンデミック後の世界経済の行方

 

では、世界的なパンデミックから経済的に回復するには、どのくらいの期間がかかるのか。参考になりそうなデータとなると、100年以上前の1918年のスペインかぜの大流行にまで遡る必要がある。

 

スペインかぜ(ちなみに発生源はスペインではないらしい)は、新型コロナウイルスよりはるかに平均感染致命割合(IFR)が高いのだが、意外にも世界経済は破壊されていなかったのである。現在の状況からは、まるでピンとこない話だが、いくつかの理由が考えられる。

 

第1に、1918年はほぼ年間を通じて、アメリカなどの政府は戦時の総動員体制に重点的に予算を割いていて、これで工場生産や国家経済をテコ入れしていた。第2に、終戦時、それまで節約と貯金に励んでいた国民が通常の支出を始めたため、経済成長を後押しすることになったのである。

 

ワクチン接種が進んでも、当面は感染再拡大のリスクと背中合わせに生きていかざるを得ないという。(※写真はイメージです/PIXTA)
ワクチン接種が進んでも、当面は感染再拡大のリスクと背中合わせに生きていかざるを得ないという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

このように当時と今の世界的なパンデミックの経済的影響はまったく違うわけだが、その要因として、『ブルームバーグ・オピニオン』のコラムニスト、ノア・スミスが指摘するように、他にも構造的・社会的に考慮すべき点がいくつかある。

 

まず、1918年当時、労働者のかなりの割合が、ウイルス感染拡大の影響を受けにくい農業や製造業に従事していた。一方、今日ではたとえばアメリカ人の4分の3は、他人との密な接触機会が多いサービス業に従事している。

 

また、1918年のメディアや通信手段は新聞以外、皆無に近かった。当時、多くの政府は、スペインかぜウイルスの恐怖を煽らないよう新聞社に圧力をかけていた。新聞社側も多くが求めに従った。その結果、危険性があることさえ理解していない人々がほとんどで、普段どおりに仕事や生活を続けていた。

 

ただし、1920年には深刻な世界的不況が本格化し、1921年まで続いたことは注目に値する。エコノミストも歴史家も、不況が長引いた原因については諸説入り乱れている。一説には、終戦による物価の下落が原因だという。一方、スペインかぜに感染したのは主に働き手となる若者で、そのほとんどが製造業に従事していたため、彼らの死後しばらくして生産量の低下を招くことになったという説もある。

 

だが、1921年夏に不況から脱すると、長期的で堅調な経済成長に支えられて、高い生産性、イノベーション、成長を柱とするいわゆる「狂騒の1920年代」に突入する(水をさすようで申し訳ないが、あえて言えば、これが大恐慌の下地にもなっていった)。もっとも、それはまた別の話だ。

 

歴史は繰り返すのかどうか、断言するのは難しい。今日では医療のシステムにしても知識にしても大きく進化している。それだけでなく、経済への深刻な影響を和らげる経済的介入や景気刺激策についても、使い方と理解度は昔とは比較にならないほど洗練されている。そう思いたいではないか。

 

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小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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