(※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

観客とのコミュニケーションを重視したアートとは

■参加型のリレーショナル・アート

 

1990年代になると、見るだけではなく、寝転がる、食べるなど、作品と観客とのコミュニケーションを重視する、参加型のリレーショナル・アートが目立ってきました。

 

特にユニークなのは、ブエノスアイレス生まれのタイ人アーティスト、リクリット・ティラバーニャのリレーショナル・アートです。

 

90年にニューヨークの画廊でタイ風焼きそばを振る舞った《パッタイ》に続き、92年と95年にはタイカレーをサービスするなどのパフォーマンスで一躍注目を浴び、以降、観客とのコミュニケーションを重視したリレーショナル・アートの第一人者として注目されています。リクリットは、「アートは何かと何かをつなぐもの」と言います。

 

イギリスを代表する現代アーティスト、リアム・ギリックが「生活を芸術化すること」をテーマとした作品をつくり続けているように、こうした「アートの日常化」も今では現代アートの重要なテーマとなっています。

 

観客との関係性さえもアートとなる時代。そのことについて、フランス出身の理論家・キュレーターであるニコラ・ブリオーは著書『関係性の美学“L’esthnelle”.1998仏』の中で、IT産業やサービス産業が増え、経済構造が大きく変化したことがその背景にあると指摘しました。

 

つまり、人とのコミュニケーションのような無形の価値も、現代社会ではアートが扱うべき対象になると言ったのです。60年代までは盛んだった美術運動が影を潜めていた時期が長かっただけに、ひさしぶりの美術的な理論と運動と見なされて、『関係性の美学』は話題となり、その代表的なアーティストとして、リクリットは知られていきました。

 

ブリオーの『関係性の美学』が広まっていくと批判も現れてきました。ブリオーの言う関係性は、内輪の人間関係だけを想定している。しかし社会では「敵対」関係にあるものや「排除」を含むような行動が生まれるのが普通である。こういった人間関係の政治学を正しく見るべきなのではないかと、批評家・美術史家のクレア・ビショップは、「敵対と関係性の美学」という論文の中で言っています。

 

しかし、今日のアートにおいてはブリオーが言及し、多くのアーティストたちが認めるように、「参加」は重要なファクターです。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

 

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秋元 雄史

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